「ガンダムの父」富野由悠季監督が語る『機動戦士ガンダム』と「戦争のリアル」――自身の戦争体験と、次世代へ託す想いとは

「ガンダムの父」として知られる富野由悠季監督。アニメ業界の巨匠としてその地位を確立し、83歳となった今もなお、引退を宣言することなく創作への情熱を燃やし続けています。「体力的に創作できる時間はもう長くないかもしれない」と語りつつも、『機動戦士ガンダム』シリーズへの深い関心は変わりません。

昨日(6月17日)、NHKの番組「ニュースウオッチ9」では富野監督への独占インタビューが放送。戦後80年という節目に、自身の幼少期の戦争体験がどのように『機動戦士ガンダム』という作品に昇華されたのか、そして現代の世界情勢に対する想いを語りました。

富野監督は、太平洋戦争が始まった1941年、神奈川県小田原市で生を受けました。戦争中は、近隣の軍需工場を狙った空襲を何度も経験したといいます。

「一、二度、防空壕の中にいて、外の建物が燃えている感じを味わった記憶があります。子供心に一番怖かったのは、うちの近所の防空壕は持ち回りで掘っていたので、一番遠い我が家は入り口にしか座れなかったことです。人が一番少ない場所で、風よけのむしろが掛かっているだけ。そのむしろが風で揺れるのが、ものすごく怖かったんです」

「お気に入りの絵本を数冊抱えて防空壕に逃げ込んだことも覚えています。それから、とても可愛がってくれた大家のおじいさんが、消火活動中に焼夷弾で亡くなって、土葬されるのを目の当たりにしました。終戦の1ヶ月くらい前のことだったと思います」

終戦を迎えた時、富野監督はまだ3歳。自身を「戦中派」だとは思っていないとしつつも、戦争を肌で感じた経験の有無が、人の価値観に大きな影響を与えると語ります。

「B29が上空を飛んでいく音は覚えています。あの音こそが『戦争の存在感』だったのでしょう。ただ、それはあくまで3歳児の記憶ですから、本当の戦争体験とは言えないかもしれません」

「その後、零戦に興味を持ち、小中高と軍事関連の本を読み漁るうちに気づいたんです。私にとってB29の音は日常の一部だったけれど、戦争を知らない世代にとってはフィクションでしかない。この感覚の違いを理解するのに、20年かかりました」

1979年、富野監督は『機動戦士ガンダム』を発表します。この作品は、それまでの単純な勧善懲悪の物語とは一線を画し、ロボットを通して「人と人との戦争」や「国家間の駆け引き」を描き出しました。

「かつてのアニメ業界には、子供向けに戦争の話を作るのはご法度という風潮がありました。敗戦を経験した日本では、本能的にそうした題材を避けていたんです。戦闘機は一人のパイロットが操縦するものだから、ガンダムも戦闘機くらいの大きさでいいだろうと。だから私の作るMS(モビルスーツ)は全高20メートルなんです。それに、『敵は宇宙人』という設定ももうやりたくなかった。巨大ロボットアニメが20年近く続いて、もう変えるべき時だと思ったんです。一台のMSを動かすには、その背後に軍需産業や工業システム全体の支えが必要になる。そうなると、国家間の戦争を描かざるを得なくなるわけです」

富野監督は『機動戦士ガンダム』を通して戦争の残酷さや不条理さを伝えようとしましたが、現実世界の戦争は、彼の想像をはるかに超えるものになってしまったと語ります。

「ガンダムという作品は、近未来を舞台にした戦争物語です。MSという兵器は、本来、現代の戦闘機よりも強力なものとして設定しました。しかし、今や時代はドローン。人間が兵器に乗り込む必要すらなくなってしまった。ドローンよりもさらに無人化された兵器まで登場しています。こんな戦争のやり方は、はっきり言ってしまえば、ただ『戦場の絵』を作るためだけにある。最近、本気でそう思うようになりました」

40年以上にわたって『機動戦士ガンダム』という作品を生み出してきた富野監督ですが、ある種の葛藤も抱えていると率直に語ります。「人間というのは、いとも簡単に思考停止してしまうものです。今、みんながガンプラで遊んで『カッコいい』と思うだけで、その背後にある意味を考えようとはしない。私は教育者ではないので、若者に何かを教え諭すことはできません。ただ、漠然とした想いを口にすることしかできない。いつか誰かが、この想いをはっきりと語り継いでくれることを願っていますが、正直なところ、20年待っても、まだそういう人は現れていないように感じます」

インタビューの最後に、富野監督は今後の創作活動についても言及しました。「これからも戦闘をテーマにした作品は作り続けたい。しかし、次に作る作品には明確な『敵』は存在しません。本当の敵は、この地球に生きる人類そのものかもしれない。そんな物語を作ってみたい。アニメーションだからこそ、それが可能だと信じています」

83歳という年齢になってもなお、自身の創作が社会にどのような影響を与えられるのか、特に『機動戦士ガンダム』シリーズが単なるエンターテインメントにとどまらず、観る者に何を伝えられるのかを模索し続ける富野監督。具体的な次回作の予定は明かされませんでしたが、その創作意欲は尽きることがないようです。監督が手掛ける新たな物語に、また出会える日が来ることを期待せずにはいられません。

via: NHK