「経営から“愛”が消えた…?」とらのあな、国内実店舗が池袋1店舗のみに。衰退の理由を巡る考察が話題に

数年前のコロナ禍以降、実店舗の閉店が相次いでいた老舗同人ショップ「とらのあな」。現在、国内の実店舗は池袋店のみとなり(海外の台北店を含めると2店舗)、一時代を築いた同人ショップの現状に寂しさを感じるファンも少なくありません。 

そんな中、X(旧Twitter)で評論家の瀨田川史人さん(@setagawahuhito)が投稿した、「とらのあな」衰退の理由に関する分析が大きな話題を呼んでいます。瀨田川さんは、その原因を単なる市場の変化だけでなく、長期的な「経営理念と同人文化の乖離」にあると指摘しています。

内部事情にも詳しいという瀨田川さんによると、現在の「とらのあな」が置かれた状況は、経営層が同人文化に対する「」を失ってしまったことが一因ではないかと分析。ここで言う「愛」とは、単に作品や作家さんへの情熱だけでなく、従業員や同人文化そのものへの理解とリスペクトも含まれるとのこと。もちろん、あくまで個人の推測も含まれる見解であると補足しています。

かつての「とらのあな」は、「同人誌の委託販売」と商業書籍・映像ソフトの販売を事業の柱としていました。特に同人誌の委託販売は、在庫リスクが低く安定した利益が見込める、非常に優れたビジネスモデルでした。オタクカルチャーの最前線ということもあり、初期は同人文化を愛するスタッフが数多く集まり、まさに”熱意”で現場が回っていたと言います。

しかし、企業規模が拡大するにつれて、経営層は売上至上主義に傾倒。現場スタッフが持つカルチャーへの理解との間に、少しずつ溝が生まれていったと見られています。また、会社の規模に見合った待遇や制度が整備されなかったことで、優秀な人材の流出が加速。指摘によると、一部の退職者はメロンブックス、アニメイト、DMM、駿河屋といった同業他社や関連企業に転職し、今や業界を支える重要な人材となっているケースも少なくないようです。

人材流出と時を同じくして、市場環境も激変します。電子書籍やサブスクリプションサービスの台頭により、FANZAやDLsiteといった同人ダウンロード販売サイトが主流に。さらに、アニメイトはキャラクターグッズや女性向け市場で勢力を拡大し、その規模を一層大きなものにしていきました。これに対し、「とらのあな」は同人誌と実店舗という従来のモデルに固執し、業界のデジタルトランスフォーメーションの波に乗り遅れてしまったと分析されています。

もちろん、「とらのあな」も手をこまねいていたわけではありません。クリエイター支援プラットフォーム「Fantia」やオタク専門の結婚相談サービス「とら婚」といった新規事業を立ち上げ、変革を試みました。しかし、これらの事業が一定の成果を上げる一方で、本業である実店舗の運営改善には繋がらず、慢性的な人材不足も相まって、改革の効果は限定的だったと見られています。

そこに追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスのパンデミックでした。すでに厳しい状況にあった実店舗の経営は壊滅的な打撃を受け、多くの店舗が赤字に転落。女性向け作品に強く、客足が集中していた池袋店A館などを除き、全国の店舗は次々と閉店に追い込まれ、事業規模は大幅に縮小されました。コロナ禍を何とか乗り切ったものの、その後の人手不足やリソースの限界から、かつての店舗網を再建することは困難だったようです。

▼ 現在、日本国内で唯一営業している「とらのあな」の実店舗、池袋店。フロア規模はかつてより縮小され、女性向けの同人誌やグッズが中心の品揃えとなっています。

この一連の投稿はネット上で大きな反響を呼び、多くのユーザーから惜しむ声や懐かしむ声が寄せられています。「まさかここまで寂れるとは…」「栄枯盛衰ってやつか」「昔のあのワクワク感はもう戻らないんだな」「営業さんがどんどん辞めていった頃から、何かおかしいとは思ってた」「昔は本当に同人文化への愛があったよね」

また、元従業員を名乗るユーザーからは、「会社が大きくなり外部資本が入ってから、社長が異業種の人間とばかり付き合うようになり、本部の各部署との間に軋轢が生まれた。あの頃から会社の危機は始まっていた」といった、内情をうかがわせるようなコメントも投稿されています。

もちろん、衰退の原因は「とらのあな」の経営方針だけではない、という指摘もあります。デジタルプラットフォームの普及により、紙の同人誌はもはや唯一の表現方法ではなくなりました。少子化やコロナ禍の影響も相まって、同人市場全体の規模や創作を取り巻く環境そのものが大きく変化しているのです。「とらのあな」にも立て直しのチャンスは何度もあったかもしれませんが、市場と時代の急速な変化の前に、なすすべなく現在の状況に至ったのかもしれません。

かつての栄華を取り戻すことは難しいかもしれませんが、それは同時に、同人活動がもはや実店舗での展開だけを頼る時代ではなくなったことの証左でもあります。創作の発表と販売の主戦場がネットへと移行した今、同人文化そのものが大きな転換期を迎えていると言えるでしょう。

via: X@setagawahuhito