最近、X(旧Twitter)で「連載第1話でやりすぎちゃった漫画」についての投稿が話題に。中でも、人気フィギュアスケート漫画『メダリスト』が議論の中心となっています。
発端となったのは、あるユーザーのポスト。作者のつるまいかだ先生自身が、主人公・結束いのりの第1話での境遇について「ちょっとやりすぎたかもしれない」と語っていたことを紹介したところ、「読者を引き込むための衝撃」と「読者に不快感を与えるライン」のバランスについて、多くの漫画ファンから意見が寄せられました。

議論のきっかけとなったユーザー、シュピラーさんは次のようにポストしています。
「『メダリスト』ですら作者が『いのりの境遇をやりすぎた』と反省してるくらいだから、『読者を引き込むためのフック』と『読者が不快に思うライン』の線引きって本当に難しいんだろうな」

これは、つるまいかだ先生が過去のインタビューで語っていた内容です。
「第1話を描くにあたって一番大事にしたのは、いのりの心の中にあるものを、どうすれば徹底的に肯定できるか、どうすればその気持ちを表現できるか、ということでした。『自分には何もない』と思っている人間が、何かに打ち込むことで何かを得られるかもしれない、という可能性を描きたかったんです。それはいのりの最初の衝動であると同時に、私自身がこの作品に懸ける気持ちとも重なっていたのかもしれません」
「その衝動を、苦しみながらも全部出し切って、できるだけ格好良く、肯定的に描こうと必死だった記憶があります。夢を全力で追いかける気持ちは、いのりだけが持つ特別な感情ではなく、ごく普遍的で、誰もが持ちうるもの。だから、その気持ちは当然肯定されるべきだし、誰も反対しないだろうと思っていました」
「しかし、『メダリスト』の取材や構想を進める中で、『果たして全ての子どもがそうできるのだろうか?』と考えるようになり、それが本作のテーマにも繋がっていきました。ただ、今振り返ると、いのりの強い自己肯定感の低さの描写については、『あそこまで描かなくても良かったんじゃないか?』と思うこともあります」
「TVアニメ版ではそのあたりの表現を少しマイルドにしていただいていますが、初めての商業連載だった当時は、読者の方からどう見えるかという視点が全くありませんでした。『いのりが辛ければ辛いほど、読者は共感してくれるはずだ』と思い込んでいたので、『可哀想で見ていられない』と感じる方がいるとは想像もしていなかったんです。今思えば、本当に視野が狭かったなと。そういった部分は、連載を始めてから少しずつ学んで、調整していったところです」

しかし、多くの読者からは、あの衝撃的な第1話があったからこそ、作品に引き込まれたという声も上がっています。第1話で描かれたいのりの抑圧と自己否定こそが、その後の成長物語の重要な土台になっているという意見です。
ある読者は「まさにあの1話があったから『メダリスト』を読み始めたし、結果的に最高の作品に出会えたと思ってるから、もしリメイクする機会があってもあのままでいてほしい」とコメント。また別の読者も「正直あそこで心を掴まれたクチなので、一概にどっちが良いとは言えない」と語っています。


また、物語の構造的な観点から分析するユーザーも。「今思うと冒頭は少し違和感があるけど、その後のいのりの驚異的な成長スピードや、スケートへの異常な執着、天才と狂気を併せ持つキャラクター性を考えると、あの導入がなければ色々と繋がらなかったと思う」と指摘しています。

さらに、「小学5年生から本格的にフィギュアスケートを始めて、国際大会レベルまで上り詰めるっていう展開は、フィクションだとしても、彼女の特異性を最初に強く描いておかないと読者が納得しづらい」と続け、物語の後半で母親がいスケートに反対していた理由が明かされたことで、初期の過剰にも見えた描写に説得力が生まれたと分析しています。

一方で、物語の整合性とは別に、読書体験としてどうかが問題だという意見も。「どんなに後が面白くても、序盤でいじめ、排斥、暴力、虐待みたいな生々しい描写があると、そこで読むのをやめてしまう読者は一定数いる」と語るユーザーもいます。
「それ自体が作品のテーマならまだしも、主人公の悲惨な過去は匂わせる程度で十分。あまりに具体的すぎると逆効果になることもある」というのがその主張です。

議論は他の有名作品にも波及。あるユーザーは、その代表例として『僕のヒーローアカデミア』の爆豪勝己を挙げました。連載初期の彼の言動は、今でもたびたび議論の的になります。
このユーザーは個人的に爆豪が苦手としつつも、「他のキャラに比べて作者がノリノリで描いてるのが伝わってくるし、ドラマとしては大成功だよね」と、そのキャラクター造形を評価しています。

これには元の投稿者も「『ヒロアカ』を読んで爆豪の印象が残らない人はいないだろうし、好き嫌いがハッキリ分かれる時点でキャラクターとしては大成功」と同意しています。

少年漫画だけでなく、少女漫画の金字塔『こどものおもちゃ』も話題に。「歯医者で読んだけど、クラスメイトをいじめて藻だらけの池に突き落とすシーンが強烈すぎて、それ以降読めなくなった。今でもあのシーンしか覚えてない」といった懐かしい思い出を語るユーザーもいました。

『メダリスト』から『僕のヒーローアカデミア』、『こどものおもちゃ』まで、この議論は「漫画の第1話は、どれくらいのインパクトが必要なのか?」という根源的な問いに行き着きます。あまりに淡白だと読者の心を掴めず、かといって刺激的すぎたり悲惨すぎたりすると、一部の読者をふるい落としてしまう可能性があります。
もっとも、今回名前が挙がった作品はいずれも大ヒットを記録しているだけに、最終的には読者一人ひとりの「受け入れられるライン」に委ねられているのかもしれませんね。
via: X@k11250922