『マキバオー』作者・つの丸先生が語るジャンプ連載の壮絶な日々「1日100歩も歩かない」「余命10年宣告も」

90年代の『週刊少年ジャンプ』で異色の競馬漫画として絶大な人気を博し、アニメ化もされた『みどりのマキバオー』。多くの読者にとって、忘れられない作品の一つではないでしょうか。

先日、作者のつの丸先生が、同じく漫画家の大石浩二先生と共にニュースサイト『日刊SPA!』のインタビューに応じ、両氏が経験した『週刊少年ジャンプ』での地獄のような連載時代や、現在も漫画を描き続ける心境について語りました。

お二人の出会いは約10年前、手塚賞・赤塚賞の審査会だったそうです。大石先生は「先日、新人ギャグ漫画家さんの受賞記念写真をXに投稿したら、なぜか削除する羽目になってしまって。『つの丸先生の許可なく載せたから消しました』って冗談でポストしたんです」と語ります。

すると、その投稿をきっかけに、写真に偶然写り込んでいたつの丸先生にネットの注目が集中。「つの丸先生ってこんなイケオジだったのか!」と驚きの声が殺到したのだとか。これにはつの丸先生も「そうそう、5年に一回くらい『実はイケメンだった』って再発見されるんですよ(笑)」と笑いをこらえきれない様子でした。

話題が『少年ジャンプ』の週刊連載時代に及ぶと、お二人とも「多忙すぎて私生活なんてものはなかった」と口を揃えます。つの丸先生は「本当に忙しくて、当時の記憶がほとんどないんです。ひどい時は1日に100歩も歩かない日で、頭の中は漫画のことしかありませんでした」と振り返ります。

一方、大石先生も「原稿を提出した後は、机の下か玄関で翌日の昼過ぎまでぶっ倒れてました」と壮絶な日々を告白。当時、最も恐れていたのは原稿を落とすことだったと言い、つの丸先生は「あの頃は、一度でも原稿を落としたら、即打ち切りになる可能性がありましたから」と当時の厳しい掟を明かしました。

アシスタントがいても、決して楽になるわけではありません。つの丸先生は「こっちの作業が遅れるとアシスタントさんを待たせることになる。それがまたすごいプレッシャーで」と、その心労を語ります。

大石先生は、ある強烈なエピソードを披露。当時、『ONE PIECE』のヘルプも掛け持ちしていたアシスタントがいたそうですが、自身の原稿が終わらない状況に。しかし、尾田栄一郎先生の作業を遅らせるわけにはいきません。最終的には担当編集から「もうこっちはいいから、『ONE PIECE』の方に行って!」と告げられてしまったのだとか。これにはつの丸先生も「それは不憫すぎる(笑)」と同情を禁じ得ませんでした。

週刊連載で最も過酷なのは、作画作業そのものよりも、心から休まる時間が一切ないことだとお二人は言います。大石先生は「原稿を上げたら、すぐに次の話の構想を練り始めないと間に合わない。頭がスッキリするような、解放された瞬間なんて一秒もなかったです」と語ります。

つの丸先生も「本当にリラックスできるのは、締め切りを終えてから眠りにつくまでのほんのわずかな時間だけ。何年もの間、自分の作品世界から抜け出せないような感覚でした」と同意しました。

つの丸先生は、『みどりのマキバオー』連載中、長年にわたり便秘、下痢、不眠に悩まされ、何度も気を失ったことがあると告白。ある時はトイレで動けなくなり救急車で搬送され、虚血性大腸炎と診断されて即入院したこともあったそうです。

大石先生も『いぬまるだしっ』の連載中に椎間板ヘルニアで入院。しかし、病院のベッドの上でも仕事は続きました。「病室ではネームだけ描いて、アシスタントさんに過去のデータを使ってもらって絵を完成させてもらいました」。

さらに、つの丸先生は衝撃の事実を明かします。以前、他のギャグ漫画家たちと受けた健康診断で脳に虚血性白質脳症が見つかり、医師から「余命10年かもしれない」と宣告されたことがあったというのです。しかし、「今は昔ほど無茶な働き方はしていないので。あれから8年経ちましたけど、まだピンピンしてますよ」と笑顔で語りました。

『週刊少年ジャンプ』名物の読者アンケートシステムについて、大石先生は「ギャグ漫画はもともと上位を狙えるジャンルではないので、そこまでプレッシャーは感じていませんでした」と話します。それでも、ランキングは創作の参考にしていたそうで、「特定のキャラクターが人気なら、そのキャラがウケているんだなと判断したり、自分の描きたいように描いて順位が落ちたら、何がダメだったのか分析したりしていました」とのこと。

対照的に、つの丸先生は「僕はアンケートはほとんど見ていませんでした」と断言。しかし、『サバイビー』の連載時、人気が振るわなかったため編集者から「このままでは打ち切りです」と通告されたことがあったそうです。それでも、自分が納得できないものを無理に描くことはしたくなかったつの丸先生。潔く連載を終了させ、その後、自腹で時間をかけて物語の結末までを描き上げ、単行本で話を完結させたのです。「その間は原稿料が出ないので、人生で一番キツかったですね。でも、何年後かに単行本を読んだ人に『この作者は話をまとめる力もなかったんだな』って思われるのだけは嫌だったんです」。

現在、お二人はウェブ漫画サイト『マンガSPA!』に活躍の場を移しています。紙の週刊誌と比べて更新頻度も緩やかで、毎週の締め切りに追われることもありません。つの丸先生は「今はすごく自由です。『たまには遅れてもいいか』くらいの気持ちで描いているので、プレッシャーはだいぶ減りました」と笑います。

大石先生も「隔週更新で締め切りにも余裕があって、本当にありがたいです」と感謝しつつ、「ただ……つの丸先生の『ザ・ドッグファーザー』、最近の更新ペースは本当に遅いですよね(笑)」と鋭いツッコミを入れていました。

同じ『週刊少年ジャンプ』でギャグ漫画を連載し、時代は違えど、締め切りに追われる過酷な日々を戦い抜いてきたお二人。インタビューからは、我々の想像を絶する漫画家という仕事の厳しさがひしひしと伝わってきました。

via: 日刊SPA!