ライトノベル『いぬかみっ!』のイラストレーターであり、登場キャラクターのデザインも担当した絵師の若月神無さんが、出版社WiZHが発行した電子書籍『いぬかみっ!総集篇(上)』において、事前の告知や同意なく別の絵師によってイラストが描き直されたとして、同社を提訴したことが明らかになりました。
この件は大きな注目を集めており、9月1日、若月さんは自身のXアカウントで、電子書籍『いぬかみっ!総集篇(上)』をめぐる訴訟の経緯と、その意義について説明しました。

若月さんは投稿の冒頭で、「今回の『いぬかみっ!』リライト訴訟は、私、若月神無個人の問題だけでなく、様々な業界で創作に携わるクリエイターの皆様に関わる問題です」と切り出しました。
そして、「この訴訟の意味を誤解なく知っていただくため」として、Q&A形式で自身の主張をまとめています。
■ いったい何が起きたの?
「何が起きたのか?」という問いに対し、若月さんは、自身が最初にデザインしたキャラクターが、WiZHから何ら連絡もなく、本人の同意も得られないまま、別のイラストレーターに発注され描き直されたと説明。さらに、出版社は「キャラクター原案」のクレジットを削除した上で、描き直されたイラストを電子書籍の表紙に使用し、有料で販売・配信したと主張しています。
若月さんは「事前に相談さえ頂ければ、契約を結んだ上で喜んで許諾したと思います。本当に残念です」と心境を綴っています。

■ 『いぬかみっ!』の著作権は譲渡していないと強調
著作権の問題について、若月さんは「私はいぬかみっ!関連の著作権を、誰にも譲渡したことはありません」と断言。 過去17年間にわたり、KADOKAWAからコミカライズやアニメ化といった二次利用によって生じた印税を受け取り続けていることを明らかにしました。
今回の『総集篇』でのキャラクターや作品内容の使用については、「今回の総集編に使うことを許諾した事実は一切ありません」と強く否定しています。
■ なぜ「無断リライト訴訟」と呼ぶのか?
若月さんは、今回の件を「無断リライト訴訟」と呼ぶ理由についても説明しています。 これは、自身が創作したキャラクターを元に、別のイラストレーターが描き直し、最終的に商品化されたためだとのこと。さらに、生成AIの普及により、今や他人の作品をベースに商品を大量生産することが、より容易になっていると指摘しました。
このような作者の許可を得ない「リライト」が許されてしまえば、「今回のような無断リライトが許されてしまうと、世の中には安易に作られた模倣品が溢れ、本物のクリエイターは価格競争によってあっという間に生活の糧を失うことになります」と警鐘を鳴らしています。ただし、若月さんは『いぬかみっ!総集篇』の表紙制作に生成AIが使われたと主張しているわけではなく、あくまで一例として挙げたものであることも付け加えています。
■「これって、あなた個人の問題では?」
「これは個人的な問題では?」という疑問に対し、若月さんは「いいえ、違います」とキッパリ否定。もし「原作者の許可を得ないリライト」が合法とされれば、最初に作品を生み出したクリエイターの権利が誰にでも無視されかねないと指摘します。「これは世界中のすべてのクリエイターに関わる問題です」と強調し、今回の訴訟が単に自身の権利を主張するためだけのものではないと訴えました。
■「泣き寝入りすれば、次の被害者が出る」
最終的になぜ提訴に踏み切ったのかについて、若月さんは「ここで泣き寝入りすれば、次の被害者が出てしまうからです」と説明。クリエイターが声を上げなければ、クリエイター自身も、作品も、そして作品の未来も守れないとし、今回の件で訴訟を起こす決意をしたと語りました。
一方、出版社であるWiZHは、若月さんによる正式な提訴に先立ち、6月15日に原作者の有沢まみず氏との連名で公式サイトに声明を発表。 WiZH側は当時、「弊社といたしましては、本作が第三者の著作権その他の権利を侵害するものではないと考えております」との見解を示していました。
同時に、出版社は本件が解決するまでの暫定的な措置として、『いぬかみっ!総集篇(上)』の一部サイトでの配信停止と、『いぬかみっ!総集篇(下)』の配信開始を見合わせることを発表しました。 ただし、WiZHはこれらの措置が、権利侵害の事実を認めるものではないことも強調しています。
現在も双方の主張は食い違っており、若月さんは正式に東京地方裁判所に訴訟を提起しています。 この問題が今後どのように展開し、司法がどのような判断を下すのか、日本のクリエイター界隈からも大きな注目が集まっています。