『チェンソーマン』の藤本タツキさんによる読み切り漫画『ルックバック』は、劇場アニメ化され大きな反響を呼びました。2025年12月には是枝裕和監督による実写映画化も発表され、9月11日から劇場公開されています。
公式は9月21日、劇中アニメーションの場面写真4点を初公開。あわせて、『ルックバック』原作者の藤本タツキさんと、劇中のロトスコープアニメーションを手掛けた久野遥子監督による対談も公開されました。制作の舞台裏はもちろん、2人の関係がまるで「藤野と京本」のようだったことも明かされています。
映画の一部では、実写映像をもとに絵を描き起こす「ロトスコープ」の技法を採用。久野遥子さんがアニメーション監督を務め、『化け猫あんずちゃん』などを手掛けたシンエイ動画がアニメーション制作を担当しました。
公開された場面写真には、藤野と京本のほか、海や空、車窓の向こうに広がる風景が登場。実写の俳優と藤本タツキさんの絵、その絶妙な中間地点を探りながら、水彩や色鉛筆ならではの質感を生かして仕上げられています。
劇中のアニメーションパートについて、是枝裕和監督は劇場パンフレットに収録された藤本タツキさんとの対談で、その演出意図を次のように語っています。「藤野が仕事場に戻ってペンを持つラストで、藤野が何を背負っていくのかを考えました。そこで、かつて2人でアニメ化の夢を語った記憶がよみがえり、京本の描いた絵が動き出し、自分の未来を立て直すという前向きさを表現したいと思いました。」
「絵から音が聞こえて、動き出し、2人が絵の中で躍動する……というイメージでした」

完成した映像について、藤本タツキさんは「あのアニメーションパートだけ観ても感動しましたし、きっとご覧になる皆さんも泣いてしまうと思います。前後の文脈を知らなくても伝わる素晴らしい映像です」と絶賛。海辺のシーンからは、「もし京本が『シャークキック』に参加していたら、ああいう場面を描きたかったのかな?」とも想像したそうです。
さらに、「本編を観ていると、地元の風景が映るたびに何となくソワソワしてしまうんです。アニメーションパートでも『あっ、久野さんの絵だ。すごい!』と思ってしまって、結局そっちでも映画に没入しきれませんでした(笑)」と明かしています。

久野遥子さんによると、制作初期にはデジタル彩色によるアニメーションも検討していたとのこと。しかし、是枝裕和監督から、水彩や色鉛筆の繊細なニュアンスをより大切にしたいという提案があったといいます。「藤本さんらしいキャラクターの顔の要素、例えば涙袋の感じを色鉛筆で入れたりして、実写の役者さんと藤本さんの絵の中間点がないか探りました。」
制作では、まずデジタルで描いた線画を紙に出力。シンエイ動画のスタッフ約10人が分担し、色鉛筆で線を加え、絵の具で彩色していきました。久野遥子さんは「動画を1枚ずつアナログで塗ることは、普段はなかなかできません」と説明。今回は短いアニメーションパートに十分な制作期間が設けられたため、「とてもぜいたくな時間の使い方ができました」と振り返っています。

さらに対談では、2人を結ぶ意外な縁も判明しました。久野遥子さんは、本作への参加が決まった際、藤本タツキさん本人からXで直接メッセージが届いたと明かしています。
久野遥子さんは、「それはむしろ『ルックバック』のような体験でした。私にとって『ルックバック』は、漫画家を目指すエリートたちの物語で、自分とは違う世界だと思っていたんです。それなのに突然、藤本タツキさんからXでメッセージが届いて、一瞬だけ自分が藤野になったような気持ちになりました。藤野が初めて京本と出会い、心に火が付いた瞬間のような、本当にぜいたくな体験でした。」と語っています。


一方の藤本タツキさんも、多摩美術大学の卒業制作として久野遥子さんが発表した『Airy Me』を以前から知っており、その映像に打ちのめされたことが、漫画を描こうと決めるきっかけになったと告白。その後も久野遥子監督の『化け猫あんずちゃん』や、参加作である『クレヨンしんちゃん』シリーズに強い憧れを抱き、勝手にライバル視していたといいます。
そんな久野遥子さんが、自身の作品の実写映画化に参加し、さらに劇中アニメーションまで手掛けることになったのは、藤本タツキさんにとって大きな喜びだったそうです。ただその一方で、「久野さんは僕の作品に時間を使っている場合じゃないんじゃないか」とも思ってしまい、どれだけ久野さんを意識してきたかメッセージで伝えました。今思うと、ちょっと気持ち悪かったかもしれません(笑)。

久野遥子さんは、藤本タツキ作品に登場するキャラクターについても分析。まっすぐな愛情と、子どもならではの残酷さを同時に抱えた「子ども性」があると語っています。
「愛情がまっすぐでも、どこか意地悪だったり、子どもならではの残酷さが同居していたりする。その感覚は、子どもだけが持つきらめきだと思います。大人になると、だんだん物事の辻褄を合わせるようになりますよね。藤本さんの作品を読んでいると、そうした子ども性をよく感じます」

これに対して、藤本タツキさんは「その人に何か足りなかったり、何か欠けていたりしても、別に直さなくていいと思っているんです。」とコメント。キャラクターを描く際、あえて未完成な部分を残していることが、久野遥子さんの語る「子ども性」につながっているのかもしれないと分析しています。
藤本タツキさんと久野遥子さんによる対談の全文は、現在映画公式サイトで公開されています。
via: X@実写映画『ルックバック』公式