「僕が引退したあと、PlayStationはPCと同じになった」“PSの生みの親”久夛良木健氏が語る技術革新の停滞

「PlayStationの生みの親」として知られ、ソニー傘下のソニー・コンピュータエンタテインメント(2016年にソニー・インタラクティブエンタテインメントへ社名変更)で会長兼CEOを務めた久夛良木健氏。

久夛良木氏はこのほど、ゲームメディア4Gamer.netのインタビューで、2007年に自身が引退して以降、PlayStationは「PCと同じになってしまった」と振り返りました。PCとコンシューマ機の融合による市場拡大には一定の評価を示す一方、それが技術革新につながったわけではなく、PlayStationならではの独自性が薄れているとの見方を示しています。

久夛良木氏は9月29日、電気通信大学で行われたイベント終了後にインタビューに応じました。初代PlayStationからPS3までの歩みを振り返り、当時のPlayStationについて「間違いなくテクノロジードライバーだった」と語っています。

ゲーム機に求められる高いリアルタイム性と応答性を実現するため、当時のPlayStationにはさまざまな先端技術が投入されました。タイトルの規模を拡大し、グローバルな流通網と巨大なエコシステムを築きながら、次々と新たなイノベーションを起こすことが目標だったといいます。

しかし、自身の引退後については、「PCゲームの人材が入ってきて、PlayStationはPCと同じになってしまった。」と振り返りました。

もっとも、久夛良木氏はこの変化を全面的に否定しているわけではありません。PCとコンシューマ機が融合すれば、ゲームメーカーがリーチできる市場は確実に広がります。ただし、そのメリットを認めつつも、「でも、それがテクノロジーの進化を呼び起こしたかといえば、そうではなかった。」と指摘しています。

2005年当時、久夛良木氏はPS3を「エンタテインメントのためのコンピューター」と位置付け、IBM、東芝と共同開発したCellプロセッサや、NVIDIAと開発したGPUの構想を紹介していました。NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアン氏とは将来の技術ロードマップまで共有しており、その協業の出発点となったのが、PS3向けグラフィックスプロセッサ「RSX」です。

久夛良木氏が目指していたのは、汎用コンピューターの処理性能を単純に引き上げることではありません。従来の技術では到底実現できなかった、まったく新しいエンタテインメント体験を生み出すことでした。

今回のインタビューではNVIDIAに加え、PS5へ技術を提供しているAMDにも言及。両社がその後AI分野へ進んだことを挙げ、「AIのほうがはるかに高度な技術を扱っているけれど、今のゲーム業界はそこに入れていない。」と語りました。

一方、現在のソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)も、AMDと共同開発したAI技術を採用しています。PS5 Proには、ニューラルネットワークとアルゴリズムを刷新した進化版のPSSR(PlayStation スペクトルスーパーレゾリューション)が導入され、アップスケーリング品質がさらに向上。『SILENT HILL f』『モンスターハンターワイルズ』『FINAL FANTASY VII REBIRTH』『紅の砂漠』など、対応タイトルも続々と登場しています。

久夛良木氏はハードウェアだけでなく、ゲーム開発そのものの進歩についても厳しい見方を示しました。例として挙げたのは、初代『バーチャファイター』と初代PlayStation用ソフト『闘神伝』です。両作の登場時期にはそれほど開きがないものの、『闘神伝』ではすでにテクスチャマッピングが採用されていました。しかも、開発チームは10人以下、開発期間はわずか3カ月だったといいます。今ではちょっと信じがたい爆速開発です。

それに対して、現在のゲーム開発では膨大な時間と人員を投入しながら、結果として変わったのはシェーディングが少し美しくなった、あるいはNPCが多少多く話せるようになった程度というケースもあります。AI技術の急速な進歩と比べれば、ゲーム業界の変化は限定的に見えるとして、「進化が止まっているように思える。」と率直な印象を口にしました。

久夛良木氏の発言は、AIが猛烈なスピードで革新を続ける一方、ゲームやゲーム機では、その技術を生かせる範囲がまだ限られているという指摘でしょう。この十数年でAIが文字通り“異次元の進化”を遂げたのに対し、ゲーム業界は十分に追随できていない――そんなもどかしさがにじみます。

ゲームを取り巻く環境も、かつてとは大きく変わりました。現在はPCだけでなく、スマートフォンをはじめとする多種多様なデバイスでゲームを楽しめます。コンシューマゲーム機がプレイヤーの時間を独占できる時代ではありません。久夛良木氏が望んでいるのは、技術革新を取り込むことで、ゲーム業界全体がこれまでにない体験を次々と生み出す未来なのかもしれません。


via: gamestalk