近年、生成AIの急速な発展に伴い、著名人の顔や声を本人に無断で使用したAI動画・画像が相次いでいます。声優の津田健次郎さんも、自身の声を生成AIで無断模倣されたとして東京地方裁判所に提訴。裁判所は「声」もパブリシティ権の保護対象になり得るとの判断を示し、声優の「声の権利」を巡る大きな一歩となりました。
こうした中、日本俳優連合(日俳連)が、「音声に関する生成AI利用ガイドライン」を発表しました。AIに声を学習・再現させる場合や、生成した音声を作品で使用する場合には、本人から事前に書面で同意を得るよう求めています。同意の有効期間は原則最長1年。さらに、AI利用の対価は通常の出演料に含めず、別途支払う必要があります。

日俳連は、俳優・声優約2,600人が加盟する団体です。今回発表された「音声に関する生成AI利用ガイドライン」は、制作会社やAI開発企業などに順守を呼びかける自主的なルールとなっています。日俳連によると、現時点では個人の「声」そのものを包括的に保護する法律が整備されていません。本人に無断で声をAIに学習させたり、そっくりな音声を生成したりする行為への対応が、待ったなしの課題となっています。

ガイドラインでは、音声データをAIの学習に提供する段階、本人の声を再現するAIモデルを開発・構築する段階、生成音声を作品などで利用する段階について、それぞれ本人から個別に書面で同意を得る必要があると定めています。また、ひとつの契約だけで、将来の別作品や新シリーズへの利用許諾までまとめて取得することも認めていません。いわゆる「一度OKをもらえば使い放題」はNGというわけです。
同意および契約の有効期間は、原則として最長1年です。期間終了後も使い続ける場合は、利用条件や対価をあらためて協議し、書面で更新の同意を得なければなりません。ただし、開発・制作が長期にわたるゲームやアニメなどでは、合理的な理由がある場合に限り、1年を超える契約も可能です。対価については通常の出演料とは別に、AIの学習・開発料、生成AI使用料、広告・宣伝などへの追加使用料、多言語化使用料を設定するよう求めています。条件や報酬について合意できなければ、AIの利用はできません。

日本語版の音声作品をAIで多言語化し、海外展開する場合には、変換する言語ごとに本人の個別同意が必要です。さらに、オリジナルの演技が持つニュアンスや感情表現、文化的な文脈を著しく損なう改変も認められていません。声だけ似ていても、芝居の魂を置き去りにするのはダメ、ということですね。
AI生成音声を作品で使用する際は、AIによって生成された音声であることに加え、使用したAIの事業者名・製品名・サービス名・モデル名、元の音声データを提供した実演家の氏名などをクレジットに記載する必要があります。ただし、実演家本人は氏名の非表示や、匿名・変名での表記を求めることができます。

亡くなった実演家の声をAIで再現する行為については、原則禁止としています。例外となるのは、本人が生前に出演へ合意していたプロジェクト、または生前に出演していたシリーズのうち、亡くなった時点ですでに具体的な制作が始まっていた続編作品に限られます。
例外条件を満たす場合でも、使用はほかの実演家による代替や引き継ぎが難しい未完成部分の補完など、必要最小限の範囲にとどめなければなりません。さらに、利用前には遺族と生前の所属事務所などから書面による同意を得たうえで、生前と同等以上の適正な利用料を遺族へ支払う必要があります。

津田健次郎さんの訴訟で「声」もパブリシティ権の保護対象になり得るとの司法判断が示されたことに加え、日俳連も具体的なガイドラインを打ち出しました。今後は政府機関への働きかけも進め、声の権利を巡るトラブルに、より実効性のある対策が整備されることが期待されます。