アニメ業界は“ソシャゲバブル崩壊”の道を辿るのか? 労働環境改善の裏で制作費が高騰、ハイリスク化する現場の懸念

日本のソフトパワーの代表格ともいえるアニメ業界。近年その勢いはとどまることを知らず、コロナ禍を追い風に海外市場でも大きな存在感を示しています。

しかし、その華やかな世界の裏側では、深刻な問題が進行しているようです。経済アナリストの不破聡氏が日刊SPAに寄せた記事によると、現在のテレビアニメは制作費が高騰し続けており、一本あたりの「当たり外れ」のリスクが極端に増大しているとのこと。この状況は、かつてバブルが崩壊したスマートフォン向けゲーム(ソシャゲ)業界と酷似しており、「アニメ業界も同じ道を辿るのでは?」という懸念の声が上がっています。

帝国データバンクの調査によれば、2024年の国内アニメ制作市場の規模は3621億円(前年比4.0%増)に達し、過去最高を更新し続けています。この成長を牽引しているのが、テレビや映画に加えて急成長した配信プラットフォームの存在です。今や制作会社の45.2%が海外企業と取引を持っており、NetflixやAmazon Prime Videoといった巨大プラットフォーマーが、業界にとって欠かせない大口顧客となっています。

しかし、ここで注目すべきは、放送されるアニメの「本数」自体は減少傾向にあるという点です。ピークだった2016年の361本に対し、2023年は約300本。市場規模は2016年の2000億円台から2023年には3482億円へと拡大しているにもかかわらず、です。これは何を意味するのか? 答えはシンプルで、アニメ1作品あたりの制作コストが、著しく高騰していることを示しています。

かつて30分アニメ1話あたりの制作費は1000~1500万円が相場でしたが、現在では2000~3000万円が当たり前になっています。つまり、1クール(13話)で1億円台だった制作費が、今や2億円から、場合によっては4億円近くにまで跳ね上がっているのです。

制作費高騰の背景には、労働環境の改善があります。かつてアニメ業界といえば「夢や情熱の搾取」と揶揄されるほどの低賃金・長時間労働が問題視されていました。しかし近年、クリエイターたちの待遇は着実に改善され、平均年収も上昇傾向にあります。これ自体は非常に喜ばしいことですが、一方で膨れ上がったコストを回収できなければ、事業としては成り立ちません。結果として、アニメ制作はハイリスク・ハイリターンな“博打”の様相を呈してきているのです。

こうしたハイリスク・ハイリターンな作品の代表例が、昨年4月から放送されたオリジナルアニメ『ガールズバンドクライ』です。フルCGで描かれる圧巻のライブシーンにはプロのバンドによるモーションキャプチャーが使われ、さらに声優オーディションから実際のバンド活動まで、放送前から長期にわたる一大プロジェクトとして展開。その制作費は10億円以上とも噂されています。結果的に作品は人気を博し、今年9月には武道館でのライブも決定するなど、成功例となりました。

しかし、巨額の投資が必ずしも成功に結びつくわけではありません。記憶に新しいところでは、2013年に公開されたスタジオジブリの『かぐや姫の物語』が挙げられます。制作費50億円以上という破格の予算が投じられましたが、興行収入は振るわず赤字に。この結果を受け、スタジオジブリは翌年に制作部門を解散し、必要な時にスタッフを集めるプロジェクト制へと移行。業界全体が低迷期にあったことも相まって、大きな衝撃を与えました。

冒頭で触れたソシャゲ業界との類似点はここにあります。かつてのソシャゲ市場も、開発費の高騰とヒット率の低下が同時に進行しました。市場の成長が頭打ちになる一方で、供給されるゲームの数は増え続け、結果として「プレイヤーの奪い合い」という供給過剰の状態に陥ったのです。現在では、低コストで開発された、いわゆる“使い捨て”のようなゲームが市場に溢れており、飽和状態にあることは誰の目にも明らかです。

アニメファンの間で常態化している「○話切り」(数話見ただけで視聴を打ち切ること)という文化も、作品数が多すぎて視聴者が“消化しきれない”という供給過剰の表れと言えるでしょう。もちろん、中には意図的に低予算で制作される小品もありますが、そうした作品が大きな話題になることは稀です。『名探偵コナン』や『鬼滅の刃』のような国民的ヒット作は安泰でしょうが、それ以外の大多数の作品は、このハイリスクな市場の“犠牲”となり、人知れず消えていくことになるのかもしれません…。


via: 日刊SPA