2011年の設立以来、アニメ制作会社MAPPAは、他社との共同制作を経て、『Yuri!!! on ICE』や『ゾンビランドサガ』、そして2020年以降は『呪術廻戦』、『進撃の巨人』、『チェンソーマン』など、ヒット作を次々と世に送り出し、その制作能力の高さを示してきました。
2016年より同社の代表取締役社長を務める、大塚学氏(43)が、このほど文藝春秋のインタビューに応じ、MAPPAが歩んできた道のりを振り返るとともに、アニメ制作における初志や自らの理念について語りました。

かつて、配信プラットフォームとのビジネス交渉は、主にテレビ局やレコード会社が主導権を握っており、アニメ制作会社が自ら関わることは稀でした。しかし、『呪術廻戦』や『進撃の巨人 The Final Season』では、製作委員会方式でありながらも、MAPPAが日本国内における配信の窓口業務を担当するようになります。
これはMAPPAにとって、単に「アニメを制作する」だけでなく、「作品がどのように視聴者の元へ届けられるのか」というプロセスに初めて本格的に関わる、重要な学習経験となりました。この10年でテレビ放送とネット配信の併用は当たり前になりましたが、どのプラットフォームで配信し、どのように権利を分配するかは、収益構造に直接影響します。視聴回数に応じたレベニューシェアなのか、固定費用の買い切りなのか、その差は非常に大きいのです。

その試金石となったのが、2020年に放送された『恋とプロデューサー〜EVOL×LOVE〜』です。中国のゲームを原作とする本作で、MAPPAは中国以外の地域における配信権の運用を担当しました。クランチロールとの連携は進んだものの、作品そのもの、そしてビジネス面においても成功とは言い難く、権利運用の面でもベストを尽くせたとは言えない結果に終わりました。
これまで積み上げてきた制作現場での実力や信頼が、まだビジネス上の価値に完全には転換できていない。当時の体制では、いわゆる「IP(版権)ビジネス」を、まだ自分たちのものにできていなかったのです。こうした試行錯誤の末に、MAPPAが出会ったのが2022年放送の『チェンソーマン』でした。

大塚社長は、『チェンソーマン』には、自分がアニメの仕事を選んだ理由があったと語ります。そこには、かつて自身が在籍した映像制作会社STUDIO4℃の作品に強く惹かれた、サブカルチャーの精神性が含まれていました。既存の枠に収まらない衝動、いびつでありながらもエンターテインメントとして成立させる魅力は、MAPPAに集うクリエイターたちの気質や、同社がこれまで手掛けてきた作品のスタイルとも深く共鳴するものだったのです。
だからこそ、『チェンソーマン』を手がけるのであれば、単なる「受託制作」であってはならない。今自分たちが持てる力のすべてを注ぎ込むべきだと考え、下したのが「100%単独出資」という決断でした。製作委員会を組成せず、プロモーションから海外展開、商品化に至るまで、そのすべてを自社で担うというものです。大塚社長は、これを自信というよりも一種の「覚悟」だったと振り返ります。

しかしこれは裏を返せば、多くのファンを持つ原作を単独で背負い、IP運用まで一手に引き受けるという責任が、想像以上に重くのしかかることを意味します。もはや制作に専念するだけではいられません。宣伝、海外市場、商品化といった一つ一つの判断が、作品の評価に直結するのです。
『チェンソーマン』の第1期では、あらゆる面で理想には届かず、経験不足や体制の未熟さが露呈した部分もありました。しかし、単独出資を選んだ以上、その結果はすべて自分たちで受け止めなければなりません。

しかし、彼らはそれで臆することはありませんでした。その後の劇場版『チェンソーマン レゼ篇』では、このIPの可能性を完全に押し広げ、海外市場の開拓にも成功して高い評価を獲得。さらには『劇場版 呪術廻戦 0』に続く、MAPPA作品として2作目となる興行収入100億円突破という快挙を成し遂げました。

一方、過去に制作した『Yuri!!! on ICE』に話が及ぶと、大塚社長はBlu-rayとDVDの売上だけで約2000万ドルを記録したにもかかわらず、続編の制作には至らなかった背景を明かしました。その理由は、制作会社への利益配分が最も少なかったことにあるといいます。
「製作委員会というスキームの中では、アニメスタジオはビジネスの核にはなれないのだと痛感しました。品質管理や納期の責任、さらには出資リスクまで負う一方で、得られる利益は最も少ない。この構造的な問題が、非常にはっきりと見えたのです」と、当時の苦しい胸の内を語りました。
( 関連記事:7年待ったファン悲鳴… MAPPA『Yuri!!! on ICE』劇場版の制作中止を発表)

これらの経緯から、MAPPAが『チェンソーマン』で単独出資に踏み切った理由が見えてきます。それは、現代の配信時代に対応し、アニメ制作のあり方を根本から見直し、「IPビジネス」を自らの手で確立するための、大きな挑戦だったのです。
テレビアニメ第1期は、ある意味でほろ苦い結果に終わったと言えるかもしれません。しかし、その後の劇場版で見事に評価を回復させたことからも、MAPPAのこの挑戦にかける自信と覚悟がうかがえます。今後、他の作品でも同様のスキームが採用されるのか。それは、MAPPAが再び「覚悟」を決められる作品と出会えるかどうかにかかっているのかもしれません。
via: 文春ONLINE