アニメ産業を支える外国人材に永住資格の“逆風” 来日声優・アニメーターが抱く不安の正体とは?

海外市場の拡大を追い風に、国内のアニメ産業はかつてない活況を迎えています。しかし、実際に制作現場へ目を向けると、ある事実に気付きます。スタッフクレジットには、外国出身者の名前が決して少なくないのです。声優や原画をはじめ、アニメ制作を支えるさまざまな現場で、アニメへの憧れを胸に海を渡ってきた人たちが活躍しています。

一方、永住許可制度をめぐる相次ぐ変更や厳格化に、不安を募らせる在住外国人も少なくありません。ITmediaは、来日から20年以上にわたり活動し、『ガールズ&パンツァー』のクラーラ役や『アキバ冥途戦争』のゾーヤ役で知られる声優のジェーニャさんを取材。「アニメを支えたい」という思いと、外国人政策が抱える課題について話を聞きました。

ジェーニャさんが初めてアニメに触れたのは16歳のころ。当時はロシア・ノヴォシビルスクで暮らしており、テレビで放送されていた『美少女戦士セーラームーン』に大きな衝撃を受けたといいます。

「日本語の響きに引かれました。当時、最初に覚えた日本語が『うさぎ』だったんです」。ロシア語のボイスオーバー版では主人公の名前が「バニー」だった一方、元の音声からは、かすかに「うさぎ」と聞こえる言葉が流れてきたそうです。そのたった一つの単語をきっかけに、アニメだけでなく、この国そのものへの興味も一気に膨らんでいきました。

1998年ごろからはアニメの感想サイトを立ち上げ、日本語の楽曲をそのまま日本語で歌う活動も開始。ロシア語に訳して歌うことは比較的少なかったといいます。日本語で歌っていたからこそ国内でも注目され、まだ音声ファイルを交換して楽しんでいた時代には、サイトが「2ちゃんねる」で話題に。ネットユーザーから熱い視線を集めるようになりました。

2002年には、活動を見守っていたファンの支援を受けて初来日。声優を目指す決意を固め、2005年から東京で本格的な生活を始めました。しかし、その道のりは決して順風満帆ではありませんでした。ファンから支援を受けられたのは当初だけで、その後の暮らしはかなり厳しかったそうです。秋葉原のメイド喫茶で働き、ロシア語を教えて生計を立てながら、声優の仕事になかなかつながらない日々を過ごしました。

しかし、その道のりは決して順風満帆ではありませんでした。ファンから支援を受けられたのは当初だけで、その後の暮らしはかなり厳しかったそうです。秋葉原のメイド喫茶で働き、ロシア語を教えて生計を立てながら、声優の仕事になかなかつながらない日々を過ごしました。

転機となったのは、知人の紹介で『BLACK LAGOON』のロシア語翻訳を手伝ったことでした。さらに、ほかのエピソードのアフレコ現場にも見学者として足を運び、声の芝居が作られていく過程を肌で学んでいきます。2009年には『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』で声優デビュー。その後も出演を重ね、2015年公開の『ガールズ&パンツァー 劇場版』では、ロシア人留学生のクラーラを演じました。

近年の大きな転機となったのが、2022年放送の『アキバ冥途戦争』です。秋葉原のメイド喫茶「とんとことん」に加わるロシア出身のメイド、ゾーヤ役で初のメインキャラクターを担当。元地下格闘技選手という異色すぎる経歴を持つメイドを演じ、主題歌の歌唱にも初挑戦しました。

永住許可には、在留資格や個人の状況に応じて複数の申請ルートがあります。どのルートでも永住許可そのものにかかる手数料は一律ですが、近年になって引き上げられました。また、永住許可とは別の「在留資格変更」と「在留期間更新」についても、手数料の引き上げが予定されています。

この2つの手数料は、2025年4月に一律4000円から6000円へ改定されたばかりです。それが2026年10月1日からは、許可される在留期間に応じて1万円から7万5000円までの段階制に変わる予定です。さらに2026年8月、法務省は永住許可の取得要件を厳格化するガイドライン改定案を示しました。

また、2024年に改正された出入国管理及び難民認定法では、税金や社会保険料を故意に滞納した場合や、一定の重大犯罪を犯した場合に、永住者の在留資格を取り消せる規定も新設されています。施行は2027年4月の予定です。

今回の取材の出発点となった永住権をめぐる問題について、ジェーニャさんは制度の現状に対する率直な思いを語りました。ジェーニャさんは日本人の夫と結婚し、子どももいるため、決して他人事ではありません。

ただし、強く不安を感じているのは、永住資格が取り消される可能性そのものではなく、手数料の引き上げや申請要件の厳格化が、立て続けに、しかも急なペースで打ち出されていることです。帰化して日本国籍を取得する道もありますが、ジェーニャさんはロシア国籍を手放さない選択をしています。

だからこそ、現在の「配偶者ビザに依存する」立場の不安定さを、より切実に感じているといいます。

ジェーニャさんは、専門職としての「声優」に直接対応するビザ制度が、ほぼ存在しないことも指摘します。外国籍の声優の多くは、配偶者ビザを利用したり、モデル事務所などを通じて在留資格を取得したりしているのが実情だそうです。「アニメで安定して稼げる声優はごく一部です。それでもアニメに関わりたいと願う人たちが、もっと安心して活動を続けられる仕組みがあってほしいです。」その背景には、経済面の厳しさもあります。

「アニメというコンテンツは、作品に出演するだけで大きく稼げる仕事ではありません。」声優は配信番組やイベント出演などの仕事があって、ようやく収入が成り立つことも多いといいます。さらに、「アニメは本来、声優のプロモーションビデオではないはずです。それなのに、配信で生まれた収益は主に製作委員会や原作者へ入り、声優には相応の形で還元されにくいのが現状です。」と、業界構造が抱える問題にも率直に触れました。

長期にわたって暮らす外国人が納める年金にも、構造的な課題があるといいます。途中から国内で暮らし始めた場合、年金を納付できる期間が短くなり、将来受け取れる金額にも影響が出ます。そして、ジェーニャさんが最も強い思いを込めたのが、次の言葉でした。「手数料の値上げや申請要件の厳格化が次々と進んでいくのを見ると、外国人というだけで否定されているように感じて、つらくなることがあります。『あなたたちは歓迎されていないんだ』と言われているような気がしてしまうんです。」

実際、クリエイティブ人材の獲得を国家戦略に位置付け、専用のビザ制度を設けている国は少なくありません。それらと比べると、現在の永住許可制度はあくまで「一般的な在留制度」の延長線上にあり、クリエイティブ人材に特化した優遇制度は設けられていません。手数料の引き上げや申請要件の厳格化ばかりが先行する現状は、人材獲得の流れに逆行しているようにも見えます。

近年はアニメーターや声優として活躍する外国人材も増えています。アニメ産業が活況を迎えるなか、制作現場を支える人材をいかに呼び込み、安心して働き続けられる環境を整えるか。これは業界の未来を左右する、待ったなしの課題といえそうです。

via: ITmedia X@ジェーニャ (声優)