昨年3月、サウジアラビアのキディヤ投資会社が、世界で唯一となる『ドラゴンボール』のテーマパーク建設を発表。公開されたコンセプトアートは、世界中のファンを騒然とさせました。
多くの人にとって、どこかミステリアスなイメージのある国、サウジアラビア。彼らは日本のポップカルチャーをどう見ているのでしょうか? 今回、アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」が、サウジアラビアを代表するアニメ・ゲーム制作会社「マンガプロダクションズ(Manga Productions)」のCEO、イサム・ブカーリ(Essam Bukhary)氏に直撃インタビュー。現地の熱狂ぶりとその背景について語っています。

マンガプロダクションズは、今年の「AnimeJapan 2025」に2年連続で出展しただけでなく、なんとメインスポンサーも務めています。同社を率いるイサム氏は、会社を立ち上げる前、駐日サウジアラビア大使館で外交官として勤務していたという異色の経歴の持ち主。日本語も堪能で、日本の文化にも非常に詳しい人物です。

イサム氏によると、「私は日本のアニメを見て育ち、日本が大好きです。でも、私のようなサウジアラビア人は決して珍しくありません」とのこと。多くの人が同じように日本のアニメに親しんできたそうです。『アラビアンナイト シンドバッドの冒険』や『UFOロボ グレンダイザー』、『キャプテン翼』、『ベルサイユのばら』といった作品は、氏が特に夢中になったタイトルだとか(ちょっと懐かしいラインナップですね!)。一方、今の若い世代は『鬼滅の刃』、『進撃の巨人』、『SPY×FAMILY』など、日本でも大ヒットしている作品を楽しんでいるそうです。
一方で、イサム氏は現在の日本アニメに対して懸念も示します。多くの作品が大人向けになっており、「もちろん素晴らしい作品ばかりですが、世界中の子供たちが日本のアニメに触れる機会が減っているのでは」と指摘。自身がアニメを愛するようになったのも、子供の頃に見た体験が大きいからだと語ります。
「もし未来の子供たちが日本のアニメに触れなくなったら、10年後、20年後に国際市場での地位はどうなるか分かりません。日本は少子化ですが、世界にはまだたくさんの子供たちがいます。この潜在的なファン層を見過ごすべきではない」。そう述べ、マンガプロダクションズとしても日本のスタジオと協力し、グローバル市場で影響力を発揮していきたいと意欲を見せました。
▼ 実際に、マンガプロダクションズは東映アニメーションと共同でアニメ『アサティール 未来の昔ばなし』シリーズを制作。これまでに2シーズンが放送され、現地では家族で楽しめる良質な作品として親しまれています。

イサム氏によれば、2022年のデータでは、なんとサウジアラビアの若者の3人に1人が日本のアニメを視聴しているという結果が出ています。かつては海賊版での視聴が主流でしたが、現在は日本との公式な連携が進み、人々が正規ルートで高品質な作品を楽しめる環境が整いつつあるとのことです。
例えば、アニメ『グレンダイザーU』は日本とサウジアラビアで同時放送を実現し、さらにアラビア語の吹替版も同時に配信されました。「このスケジュールを実現するのは非常に大変でしたが、視聴者に最高の体験を届けたい一心でした。こうした取り組みを通じて海賊版を減らし、『公式配信こそがクオリティの証』という文化を根付かせたい」と語ります。
「我々にとって『Made in Japan』は単なるブランドではなく、品質に対する責任の証です。日本のアニメをお手本にするからには、我々もその基準をクリアしなければなりません。」

『ドラゴンボール』テーマパークの建設について尋ねられると、イサム氏は「このプロジェクトに直接は関わっていませんが」と前置きしつつ、一部の日本のファンから「なぜ日本ではなくサウジアラビアに?」という声が上がっていることに言及。「しかし、これは日本のスポーツ選手がヨーロッパで活躍するのと同じで、日本のポップカルチャーが世界に羽ばたいている証拠だと思います!」と力強く語りました。
「私にとって、これこそが成功の形です。日本とサウジアラビアが手を取り合って、世界にこれまでなかった新しいものを創り出す。もしこのテーマパークが他国のIPだったら、それこそ本当に残念なことだったでしょう。」
( 関連記事 : なぜ日本じゃない? サウジアラビアの『ドラゴンボール』パークから考える、現地の熱狂と日本の課題 )

日本のアニメ業界との協業についての感想や提言を求められると、イサム氏は「日本のアニメ業界は、もっと魅力的な職場環境を作るべき」と指摘。人材不足は少子高齢化だけが原因ではなく、「金融や自動車といった業界では、これほど深刻な人手不足は起きていません。やはり職場環境に大きな差があるのではないでしょうか」と分析します。
さらに、国際的な協業において、日本企業が自国のやり方に固執しがちである点にも触れました。「品質へのこだわりは素晴らしいですが、意思決定の遅さがプロジェクトの足を引っ張ることがあります。日本では2〜3年かかるような話が、他の国では2〜3ヶ月で決まることも珍しくありません」。しかしその一方で、「一度やると決めたら、日本人は100%約束を守ってくれる。この点は本当に素晴らしく、我々も見習うべきです」と称賛も送りました。

サウジアラビアのキーパーソンから見た日本のアニメ業界は、我々が内側から見ている景色とは少し違うのかもしれません。インタビューからは、彼らが日本のアニメ、そして自国でのコンテンツ制作にかける並々ならぬ情熱が伝わってきました。ゲーム業界だけでなく、アニメ業界でもサウジアラビアとの連携事例が増えている昨今、未来のコンテンツ大国としてその名を轟かせる日も、そう遠くないのかもしれませんね。
via: アニメ!アニメ!