「ガンダムの父」富野由悠季監督が語る「戦争と虚構」。「登場人物が全員ニュータイプの作品もいいかもしれない」との構想も

「ガンダムの生みの親」として知られる富野由悠季監督。アニメ業界の巨匠も今や83歳ですが、いまだ引退を宣言することなく、創作への意欲を燃やし続けています。体力的に創作できる時間は残り少ないと語りつつも、やはり『機動戦士ガンダム』シリーズへの関心は尽きないようです。

先日、朝日新聞のインタビューに応じ、『ガンダム』作品における「戦争と虚構」というテーマについて、自身の創作論から現実世界、そして現代のアニメ作品に至るまで、幅広い持論を展開しました。

ファンなら誰もが気になる「また新しい『機動戦士ガンダム』作品を作りたいか?」という問いに、富野監督は「もちろん作りたい」と即答。さらに、「いつか、世界中の人々が同時に“ニュータイプ”になるような作品が作れたら、どんなに素晴らしいだろう。まあ、そんなことはアニメの中でしか想像できないけどね」と、壮大な構想の一端を明かしました。もっとも、今の自分には創作は難しいとし、あくまで頭の中にあるアイデアの一つだと付け加えています。

政治への関心も高い富野監督は、世界情勢を憂い、「現実の独裁は、アニメよりも終わらせるのが難しい」と語ります。

「最近ずっと考えていることがあるんです。どうすればジオンのギレン・ザビのような独裁者を止められるのか、とね」と切り出した富野監督。「作中では、彼は妹に殺されて独裁政権も崩壊します。でも、現実世界はそんなに甘くないでしょう? この現実と虚構のギャップこそが、『ガンダム』の醍醐味なんです

フィクションの中で権力構造を描いたつもりが、現実では次々と新たな独裁者が生まれてくる。今のアメリカやロシアを見ていると……現実の国際政治は、アニメよりもよっぽど荒唐無稽だと感じますよ。本当の政治というものは、フィクションでは描ききれないほど予測不可能な物語なんです。

インタビューでは、「誰もが戦争を嫌っているはずなのに、兵器や戦闘シーンにはカッコよさを感じてしまう。これは矛盾ではないでしょうか?」という鋭い質問も飛び出しました。

これに対し富野監督は、「矛盾だとは思いませんし、不思議なことでもありません。軍隊というものは、そもそも民衆の支持があってこそ存在するのですから」と回答。続けて、「ビシッとした軍服姿の兵士、あれは言わば『死装束』です。死地へ赴く姿でありながら、我々はそこにカッコよさを見出してしまう。戦死というものを壮絶で気高いものとして描くためには、死者への敬意が不可欠だからです。そして、いざという時には、民衆そのものが戦力の一部になるのです」と持論を展開しました。

話が現代のアニメ作品に及ぶと、富野監督は「今のバトル漫画は、リアルさが足りない」とバッサリ。「今の少年漫画やバトルものの多くは、現実感に乏しい。今の世代の視聴者は『死ぬほどボロボロになっても死なない』展開に慣れきってしまっているから、戦争の残酷さをリアルに描いた作品を逆に受け付けられないんです」と、厳しい見方を示しました。

最後に富野監督は、こう締めくくりました。「なにも、戦争を肯定しろと言いたいわけではありません。ただ、虚構の物語を通じて現実を思考する術を学んでほしい。アニメが、現実以上に真摯に『死亡と権力』というテーマに向き合ったとき、それこそが『機動戦士ガンダム』が今なお語り継がれる理由なのかもしれません

富野監督の社会への深い洞察と、アニメーションという表現を通じて何を伝えるべきか、特に戦争というテーマにおいて、いかに現実と結びつけ、人々に思考を促すかという強い意志が感じられるインタビューでした。このような思索に満ちたクリエイターは、今後なかなか現れないかもしれませんね。

via: 朝日新聞日新聞