近年、目覚ましい進化を遂げているAI技術。画像生成から動画制作、対話型AIに文書作成まで、その活用範囲は広がる一方で、様々な議論も巻き起こっています。
先日、コミケにおけるAI問題についてSNSで持論を展開したことでも話題となった『はじめの一歩』の作者、森川ジョージ先生。そんな先生が、MANGA総合研究所が主催する「国際MANGA会議」(IMART2025)のトークセッションに登壇。「マンガとAIの関係はシンギュラリティ(技術的特異点)に向かうのか?」というテーマで、マンガの歴史や一人のマンガ家としての視点から鋭い見解を語りました。

今回のトークセッションでは、「AI×マンガ」というテーマで最もホットな話題、つまりAIが世界中のマンガの絵柄やストーリーを大量に学習した結果、生成される作品に特定の作家の影響が色濃く出てしまう問題が取り上げられました。これはクリエイターの権利を脅かすだけでなく、創作意欲そのものを削ぎかねないとして、大きな問題となっています。

しかし、森川先生のAIに対するスタンスは非常に現実的。「もしマンガ作りがより良くなるなら使えばいい。AIはあくまでツールです」と語ります。その一方で、先日、日本漫画家協会が出版社や日本動画協会と共同で発表した「生成AI時代における創作と権利に関する声明」に触れ、「もちろん著作権は守らなければならない。著作権を守ることは、クリエイターを守ることですから」と、クリエイターの権利保護の重要性を強く主張しました。
さらに森川先生は、非常に哲学的な視点から持論を展開。「AIは絶対にクリエイターには勝てません。なぜならAIは死なないから。人間は『死』を意識するからこそ、何かを必死に表現しようとする。その苦しみや葛藤が、作品を鋭く研ぎ澄ますんです」。つまり、人間が持つ「命と引き換えに生まれる創作の衝動」こそが、AIには決して模倣できない領域だと考えているのです。これは深い……!

とはいえ、AIをツールとして活用することには前向きな様子。先生が「実は僕、ずっと異世界転生ものを描いてみたかったんですよ」と明かすと、会場からはどっと歓声が上がりました。しかし、現在の連載で手一杯なため、なかなか新しい挑戦に踏み出す余裕がないのが現実。もしAIの活用で作業効率が上がれば、クリエイターが同時に様々なジャンルに挑戦する道も開けるかもしれない、と期待を寄せました。

トークセッションの締めくくりに、森川先生はこう語りました。「マンガは絵巻物から進化し、手塚治虫先生によって一度完全に破壊され、そして再構築されました。今いるマンガ家は100%、手塚先生が作り上げたフォーマットの上で創作をしています。現状のAIにできるのは、あくまで人間が過去にやってきたことの模倣に過ぎません。もし手塚治虫を超えるAIが現れ、現代マンガの枠組みすら破壊するような存在になったとしたら、その時こそ我々マンガ家が失業を心配すべき日でしょう」。
森川先生はAIの未来について楽観的であり、マンガ家の創作活動が脅かされるとは考えていないようです。便利なツールとして適切に活用することには、決して否定的ではありません。しかし、作品に「魂」を込め、命を削って生み出すことこそが創作の本質であり、その信念は揺るがない――そんな熱いメッセージが伝わってくるトークセッションでした。
via: Real Sound