漫画家・亜月ねね先生による漫画『みいちゃんと山田さん』が、7月にアニメ化されることが発表されました。しかし、本作が知的障害や風俗業といったテーマを扱っていることから、作者の言動やアニメ化がもたらす社会的影響について、議論が続いています。
全国の知的障害者支援団体である「一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会」は8月19日、意見書を公開しました。 その中で、作品のアニメ化に全面的に反対するものではないとしつつも、作品や作者、出版社の過去の言動、そして「みいちゃん」という言葉が、現実社会で知的障害や発達に特性のある女性を揶揄する際に使われている状況に懸念を表明。 アニメ化によって、知的障害者に対する社会の偏見や誤解がさらに深まるのではないかと心配しているとのことです。

「一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会」は、知的障害のある本人やその家族、支援者によって構成される全国組織です。 主に、社会への理解促進、知的障害者の権利擁護、政府への政策提言、そして本人の主体的な活動の支援などを行っています。

同会が今回公開した「『みいちゃんと山田さん』のアニメ化についての意見書」では、漫画の主人公「みいちゃん」は作中で知的障害と明確に診断されているわけではないため、知的障害者であると断定はできないと指摘しています。 しかし、作中の描写から、そのキャラクターの状態が「軽度の知的障害や境界知能を強く想起させる」と分析。 さらに、作者の亜月ねね先生が、軽度の知的障害があると推測され、障害者手帳を所持する女性を「みいちゃん」のモデルにしたと公言していたことにも言及しています。
意見書で特に問題視されているのが、アニメ化への懸念の一因として挙げられた、作者および出版社である講談社の関係編集者の過去の言動です。 同会によると、作者が過去に、吃音のある人がその特性ゆえに社会生活で困難に直面する様子を題材にした作品を公開しており、「うまく注文できずに店員に笑われる」といった描写があったことを確認しているとのことです。
一方で、同会は、出版社である講談社についても、ある編集者が過去に公開された動画内で「他人の不幸話は超おもしろい」「誰かが不幸な目に遭っているところを見たい」「気軽に罪悪感なく人の不幸が読める」といった趣旨の発言をしていたと指摘しています。
同会は、これらの言動からは、知的障害を想起させるキャラクター「みいちゃん」や、障害のある人の人格・個性への尊重が感じられず、障害に関連するテーマを「おもしろおかしく」エンターテイメントとして消費し、それを助長する、あるいは容認する姿勢が懸念されると述べています。

意見書で注目されるもう一つのポイントが、「みいちゃん」という言葉そのものが現実社会でどのように使われているかという点です。全国手をつなぐ育成会連合会は、独自調査の結果、現実社会において「みいちゃん」が知的障害や発達に特性のある女性を揶揄し、侮辱する言葉として使われている事例が複数確認されていると報告しています。
同会は、製作側が意図的にこの用法を広めている事実は確認されていないと強調しつつも、障害者の権利擁護の観点からは看過できない問題であり、後述するアニメのレイティングにも関わると指摘しています。

『みいちゃんと山田さん』アニメ製作委員会は7月27日に公表した声明で、制作過程において専門家からの助言を得ることで、アニメが偏見や誤解を助長することを避け、適切なレイティングや注意喚起を表示するとしていました。
これに対し、全国手をつなぐ育成会連合会は3つの要請を提示しました。
まず、製作委員会が「アニメーションとして表現することに意義がある」と表明した点について、作者や出版社の過去の言動が問われている状況で、この作品をアニメ化する意義が具体的に何であるのかをさらに説明すべきだと求めています。
次に、製作委員会が言及した「専門家からの助言」について、その専門家がどのような立場なのか、また助言の具体的な内容が明かされていません。同会は専門家の氏名の公表までは求めないものの、少なくとも専門的な立場と、実際にどのような助言が提供されたのかを説明するよう要請しています。
3つ目はアニメのレイティングの問題です。製作委員会は声明で、「適切なゾーニング(棲み分け)及び注意喚起の表示」を行うとしています。これについて同会は、ゾーニングが通常は視聴推奨年齢などを設定する制度であることから、少なくとも一般のテレビ放送のような形にはならないと推測できると指摘。その上で、「本会としては、未成年者が容易に本作を視聴できる状況になることは望んでおりません」と明確に表明しています。

今回の意見書で特に重要なのは、全国手をつなぐ育成会連合会がアニメ化の全面的な中止を求めているわけではないという点です。 同会は意見書の中で、知的障害者の権利擁護を主な活動としながらも、「表現の自由」が日本国憲法で保障された権利であることも理解しているとし、「本会として、アニメ化に一律に反対する立場をとるものではありません」と述べています。 しかし、現時点で複数の懸念事項が確認されている以上、製作側にはこれらの問題を真摯に受け止め、疑念を払拭するに足る措置を講じることを期待するとしています。

『みいちゃんと山田さん』は、社会や福祉制度の網の目からこぼれ落ち、孤独や貧困、搾取の中で生きる女性たちを描いた作品として、支持者から評価されてきました。しかしその一方で、作品のキャラクターやテーマの描き方については、「知的障害や発達障害のある人々に対する社会の偏見や差別を助長しかねない」との批判も根強くありました。
アニメ化の発表を機に、議論は単なる作品内容にとどまらず、より根源的な問題へと広がりを見せています。それは、フィクション作品は障害のある人々をどう描くべきなのか? そして、作中のキャラクターや設定は、現実社会でどのように受け止められ、使われ、あるいは消費されてしまうのか? 今回の意見書は、まさにこうした問いに製作側が真摯に向き合うことを求めるものとなっています。

via: 一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会