『龍王のお仕事!』白鳥士郎先生が10年前の「銀子死亡ルート」プロット案を公開!「銀子を死なせなくて本当に良かった」と語る

白鳥士郎先生が執筆し、しらび先生がイラストを手がけるライトノベル『龍王のお仕事!』。将棋をテーマにした作品として、多くのファンに愛されてきました。今年、最終巻となる第21巻が発売され、堂々完結を迎えました。

そんな本作の原作者である白鳥士郎先生が、以前から「">当初は銀子が死ぬ設定だった」と明かしており、その理由を自身のX(旧Twitter)で説明したことが話題になっています。

9月9日はヒロイン・空銀子ちゃんの誕生日!この日、白鳥士郎先生が当時の「銀子死亡ルート」のプロット案を公開しました。これは2015年、作品がまだ刊行される前の企画段階の内容で、作品タイトルすら未定だった頃のもの。先生がこの草案を明かすのは今回が初めてとのことです。

白鳥士郎先生によると、2011年に最初のプロット案が書かれ、第1巻の初稿が完成したのは2014年6月だったそうです。当時の原稿では、キャラクター名も今とは異なっており、「姉弟子」だけが「空銀子」という名前で一貫していたとのこと。また、八一が最終的に目指すタイトルも、当時は「竜王」ではなく「棋聖」だったとか。作品のタイトル自体も、当時は『あいがかり』という仮題で、2015年になってようやく『龍王のお仕事!』に正式決定したそうです。

シリーズ全体のラストシーンについては、第1巻の刊行直前である2015年8月にすべて構想が固まったそうです。当時は「ここまで書けたらいいな」という気持ちだったと振り返っています。

それでは、白鳥士郎先生が公開されたプロット案の内容を見ていきましょう!

【銀子死亡ルート・プロット案】

●第8巻『三段リーグ(上)』

※実際には第11巻に相当

天衣が挑戦者となった女王戦は、銀子のストレート勝ちで幕を閉じます。「暑くなる前に終わらせる」という宣言通り、夏が来る前に決着。銀子は圧倒的な実力を見せつけますが、初めての三段リーグでは苦戦を強いられます。

銀子は原因不明の発熱を繰り返すようになります。実は以前からその傾向はあったものの、初段昇段後、症状はさらに悪化していました。誰にも打ち明けなかったのは、この体調が勝負師としての弱点になると考えていたからです。「肌が白いから暑さに弱いだけだと思っていた……」八一は、それに気づかなかった自分を恥じます。

三段リーグ初日、銀子は連敗。対局後、彼女が頼ったのは八一だけでした。アパートで一人暮らしの銀子は、苦しそうにベッドで眠っています。八一は銀子を看病しながら、部屋で彼女が棋譜を記録していたノートを見つけます。そのノートを見て、八一は銀子との初めての出会い、二人で過ごした内弟子生活、そして苦しかった「奨励会」時代を思い出します。三段リーグ時代の先輩や同期たちと過ごした日々も描かれます。厳しくも、楽しい日々でした。

以前「奨励会旅行」などの回想で登場した三段棋士たちが、次巻では銀子の前に立ちはだかる敵として描かれます。

●第9巻『三段リーグ(下)』

※実際には第12巻に相当

銀子は徐々に体調を回復させ、次々と勝利を重ねていきます。三段リーグは史上稀に見る大混戦となり、様々なドラマが生まれます。最終日、銀子は東京で勝利を収め、史上初の女性プロ棋士となります。しかし、対局後、彼女は突然意識を失い、二度と目覚めることはありませんでした。臨終の際、銀子は口の中で棋譜を呟きます。そして、最後に「2七銀」で途絶えます。

これは、彼女が初めて八一と将棋を指した時の棋譜です。(八一に初めて負けた時、銀子は対局の全てを記録していました。前話で八一が銀子の世話をしていた際、この棋譜ノートを見つけ、それが回想パートのきっかけとなります。)銀子の体には、紫斑病によってまるで殴られたかのような大きな痣がいくつも残されていました。まさに満身創痍といった状態です。もし早く発見されていれば、命に関わる病気ではなかったのです。

しかし、銀子は三段リーグへの参加を禁じられることを恐れ、病状を隠し続けていました。娘の亡骸を見た銀子の両親は、「もう戦わなくていいんだよ」とだけ語りかけます。銀子の死は、本来であれば繰り上げで昇段するはずだった奨励会員に、昇段の機会をもたらしました。しかし、奨励会員たちは全員一致でこの昇段を拒否。最終的に奨励会を去ったその会員は、「棋士としての自分は、もしかしたらもう死んでいるのかもしれない。でも、少なくとも命までは落とさない。命を懸けて戦った銀子には、僕たちは負けたんだ」と語りました。

銀子の葬儀後、奨励会員たちは集まります。奨励会を去ることを決めたその会員は、皆に別れを告げました。「すぐに、次の戦いが始まる。あの苦しくて、厳しくて、でもかけがえのない青春の日々……『頑張れ』って言葉は好きじゃない。だから、君たちには最後まで、君たち自身のやり方で戦い抜いてほしい」と。

その後、八一は銀子の母親から一通の手紙を受け取ります。手紙の冒頭には、「あまりにも辛すぎて、今はまだあなたと顔を合わせて話すことができません。だから、この手紙を書きました」と綴られていました。

手紙には、銀子がたまに実家に帰った際、口にするのはいつも将棋のこと、そして彼女より年上の弟弟子のことだったと記されていました。そして、「あなたと過ごした日々が、娘の短い青春の全てでした。ずっと娘のそばにいてくれてありがとう。私たちは、空に帰ったあの子と一緒に、いつまでもあなたを応援しています」と締めくくられていました。

それからというもの、八一の棋風はまるで別人かのように一変しました。10月から始まった竜王戦。挑戦者は角換わりを専門とする棋士です。八一は駒を並べる際、銀将を手に取り、一瞬だけ動きを止めました。何かを慈しむかのように、そっと銀将を盤上に置きます。

竜王戦第一局。

振り駒の結果、八一の後手番となりました。先手の初手「7六歩」の角道を開ける手に対し、八一は少し考えた後、「4二銀」を指します。これは、居合わせた誰もが驚く一手でした。銀将はこの対局で大活躍し、八一は二日目の昼を待たずに圧倒的な優位で勝利を収めます。挑戦者は全く見せ場を作れず、顔面蒼白で盤を前に震えるばかり。最終的に、八一は挑戦者に一切の隙を与えない圧倒的な力で、見事竜王を防衛しました。

その対局の勝ち方は、まるで虐殺ショーのような凄惨さでした。これ以降、人々は八一を「西の魔王」という異名で呼ぶようになります。第一部は、ここで幕を閉じます。

(※「先輩奨励会員」……この時点ではまだ名前が決まっておらず、後に鏡洲飛馬となります。椚創多はこの時まだ存在していません。なんせ藤井聡太四段が誕生したのは2016年なので、そりゃあ出てこないよね、って話です(笑)。)

●第10集『第二部 将棋界で一番長い日』

※実際の出版では第14集に相当します。

四年後。初代永世竜王となり、竜王を七連覇、さらに複数のタイトルを保持する八一は、名実ともに将棋界の第一人者となっていました。あい、天衣、桂香たちも、それぞれ女流将棋界で活躍しています。銀子の死後、女流将棋界は群雄割拠の戦国時代を迎えていました。

中でも、あいと天衣はそれぞれ女王と女流王座を獲得し、女流将棋界の二大巨頭として君臨していました。中学三年生になったあいは、進学を考え始めます。彼女は八一に、東京の高校に進学するつもりだと告げます。「東京に行く。そして、奨励会の試験を受ける」と。

八一はその決断に反対します。しかし、あいも一歩も引きません。銀子を失った八一に再び自分を振り向かせるには、銀子と同じ高みに立つしかない、と考えていたのです。八一は彼女の受験に反対し、「破門にするぞ」とまであいを脅します。

しかし、あいは別の師匠を見つけ、受験を強行。6年にも及ぶ内弟子生活に終止符を打ちます。3月、あいは東京で奨励会試験に臨むことになります。そして、あいが東京へ向かった同じ3月。すでにA級棋士となっていた八一も、順位戦最終局、通称「将棋界で一番長い日」を迎えていました。将棋連盟は、A級順位戦最終局と、女流タイトル保持者であるあいの奨励会試験を、同日開催と決定。試験の模様は、ネットやテレビでも中継されることになります。

名人挑戦者決定戦での激闘の末、八一は敗北し、挑戦者となる夢は潰えました。一方、同じ日、奨励会試験に臨んだ愛は、特例で初段合格を果たします。

(※この後、実は第15巻までのプロット草案は書き進められていましたが、ここでは割愛し、概要のみをご紹介します。また、以下の概要は、2015年8月時点に残されていた全体的なプロット構成メモを元にしています。)

●愛と天衣の最終対決

愛と天衣は、それぞれ全く異なるアプローチで、八一を銀子の呪縛から解放しようと試みます。

愛のアプローチは、銀子と同じ舞台に立つこと。プロ棋士となり、八一と同じ高みに立ち、対等なライバルとして盤を挟む。将棋を通じて、八一と永遠に繋がり続けたいと願うのです。

ある意味、それは銀子の代わりになっても八一の愛を求める行為。自身の将棋の実力で銀子を八一の傍から引き剥がし、その座に自分が収まろうとする。愛にとって、将棋と恋愛は不可分一体のものです。「どちらが大切か」などという問いは、そもそも存在しないのです。

天衣のアプローチは、八一への愛が、将棋への愛すら凌駕する部分があるからこそ。元々、両親との繋がりを求めて将棋の世界に逃げ込んだ天衣は、両親以上に愛する人に出会ってしまったことで、「その人の愛を得る」ことが最大の目的となります。彼女は、本当は将棋を指す必要などないのです。

ただ、八一との繋がりが将棋を通じて築かれたものであるがゆえに、将棋を完全に手放すことができない。天衣は、八一が将棋ではなく、自分自身を最も大切にしてほしいと願います。だからこそ、八一へのアプローチも意識的に将棋を排除する形となる。「将棋以外にも、たくさんの幸せがあるんだよ」と八一に伝えたいのです。

だからこそ、八一との同居を選び、自ら八一の元を離れた愛を許せない。天衣は、将棋で愛を打ち破ることで、愛の信念を打ち砕こうとさえします。「偉そうに言ってるけど、結局私より弱いんでしょ?」と。天衣の才能は元々愛をはるかに凌駕していました。しかし、愛の将棋への情熱が努力となり、最終的に彼女は実力で天衣を上回ります。

これが二人の決定的な違い。将棋が好きだからこそ将棋を考え続ける者と、将棋を憎み始める者。二人は新人王戦の決勝で激突します。

史上初の女流棋士対奨励会員の決勝戦。フルセットにもつれ込む激闘の末、勝利を掴んだのは愛でした。

対局後、二人は和解します。

「銀子から八一を奪い返すのは、私を倒すより何倍も難しいんだからね?」

「うん、分かってる。でも、私、絶対勝つから。」

二人は一緒に眠ることなく、同じ部屋で夜通し語り明かします。愛に敗れた天衣は、八一を愛に託し、自らは将棋を離れて海外へ。それは、将棋に逃げ込み、心を閉ざしていた過去の自分との決別であり、新たな挑戦でもありました。

八一は彼女を引き止めようとします。しかし天衣は問いかけます。「私と一緒に来てくれる?将棋のない国へ。」ためらう八一を見て、彼女は「やっぱりね」と笑い、「素直になりなよ、師匠」と言い残して去っていくのでした。

天衣は気づいていたのです。「銀子を忘れて、自分だけが幸せになるのは罪なのではないか」という罪悪感に囚われ続けていた八一が、実はもう愛に惹かれていることを。

●最後の一幕

物語の最後、八一と愛は、第1巻の時と同じように再び将棋盤を挟みます。家に帰ると、愛はすでに部屋で待っていました。まるで二人が初めて出会った時のように、八一を待っているのです。

(あるいは、彼女がプロ棋士となって初めての公式戦――タイトル戦?竜王戦?――で、八一を待って盤の前に座っているのかもしれません。)

「もし私が勝ったら、弟子にしてくださいね。」

「じゃあ、俺が勝ったら?」

「私が勝つまで、ずっと指しましょう!」

八一は銀将を手に取った時、胸に痛みを覚えます。しかし同時に、その痛みが少しだけ癒えているようにも感じていました。八一はこれまでずっと悩んできたのです。亡き銀子がもういないのに、自分だけが彼女を忘れて幸せになってもいいのか?敗北によって将棋界を去っていった仲間たちがいるのに、自分だけが彼らよりも幸せになる資格があるのか、と。

しかし、この時、彼はその束縛からようやく解放されたのかもしれません。将棋に疲れ、苦しんでいた時も、いつも「あい」が将棋の楽しさを思い出させてくれました。そして八一もまた、ついに気づいたのです。

幸福というものが、将棋の中にも確かに存在しているのだと。

●最終幕2

こちらは、いわゆる後日談のようなエピソードです。

物語は銀子の命日に起こります。冒頭で「九頭竜先生!」と声がかけられますが、ここで呼ばれているのは八一ではありません。数年後に結婚し、姓が変わった「あい」のことです。「あい」は多くの弟子を取り、そのほとんどを内弟子として迎え入れています。

そのため、近所の住民からは九頭竜家が「とんでもない子だくさん家庭」として認識されているようです。かつて海外へ渡っていた天衣も帰国し、訪ねてきます。この時、天衣は医者になっており、病院で子供たちに将棋を教えているとのこと。

ただ、白鳥士郎先生は、ご自身も久しぶりに読み返してみて、この構成自体はかなり美しく書かれていると感じたそうです。もちろん、銀子の死からいきなり4年後に飛ぶ展開は「あまりにも典型的すぎる」と感じ、多少の抵抗はあったとのことですが……。

とはいえ、この構成は誰でもその後の展開が予想できてしまうほど、あまりにも整然としていて、「きっと最後はこうなるんだろうな」という予想を全く裏切らないものでした。だからこそ、最終的に銀子が亡くならない選択をして、本当に良かったと語っています。

このプロット草案には、将棋AIの急速な台頭や、藤井聡太棋士に代表される令和の棋士たちの活躍はまだ盛り込まれていませんでした。『りゅうおうのおしごと!』は、第1巻の発売後に本格的に将棋界への取材を開始。その取材で得られた成果が次々と作品に反映され、物語の規模は10年前には想像もできなかったほどに拡大していったのです。

最終的に「あいと八一の対局」という着地点をあらかじめ決めていたからこそ、物語全体が途中で破綻せずに済んだ……果たしてそうだったのでしょうか?

これにより、ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』が始まる前の白鳥士郎先生が描いていた構想と、その後の将棋界への取材を経ての変化がよく分かります。現在、最も円満な作品の結末を迎えたことで、先生が「あまりにも典型的すぎる」と評した展開にならずに済んだことは、ファンにとっても作者にとっても救いだったと言えるでしょう。

via: X@白鳥士郎