『FGO』模倣の時代は終わった―『原神』登場以降、激変するスマホゲーム業界の10年間をゲームメディアが徹底分析!

今や星の数ほど存在するスマートフォン向けゲーム。公式ライセンスのIPモノからインディーゲームまで、次から次へと新作がリリースされる毎日ですが、プレイヤーからすれば「全部遊ぶ時間なんてないよ!」というのが正直なところでしょう。では、そんな戦国時代の中で、ゲームはどうやってプレイヤーを惹きつけているのでしょうか。

先日、国内のゲームメディア「電ファミニコゲーマー」が、2015年から2025年に至るこの10年間で、スマホゲーム業界とシナリオライティングの世界に何が起こったのかを分析し、今後の展望を論じる特集記事を掲載しました。

2007年からこの業界で働く筆者と同業者の知見を総合すると、この10年の変化は、おおむね以下のようにまとめられるとのことです。

1. 2015年 『Fate/Grand Order』の登場による、ゲームシナリオ構造の再定義

2. 2020年 『原神』が巻き起こした、海外製超大作の波

3. 2023年 「ソシャゲバブル」の崩壊と業界の再編

4. 2025年 「体験の質」がコンテンツの核に

5. 2025年 シナリオライターに求められるスキルの変化と報酬の二極化

本記事では、この流れを順に追いかけてみたいと思います。

▼ 1. 「『FGO』に倣え」という集団幻想の終わり

『Fate/Grand Order』がサービスを開始したのは2015年8月。ここで重要なのは、開発者も古参ファンも口を揃えて「リリース当初の出来は、それはもうヒドかった」と言う点です。バグの嵐、常時メンテナンス状態、倍速機能も未実装で戦闘はテンポが悪く、多くの仕様は「スマホゲームなんてこんなもんだろ」という安易な考えの焼き直しでした。しかし、ひとえに熱心なファンの愛と忍耐に支えられ、少しずつ改善を重ねていったのです。

2016年夏頃、第一部第六章・第七章が実装されるとシナリオが大きな話題を呼び、年末には大規模なレイドイベントが開催。これらの一連の流れで人気が爆発し、『FGO』は国民的スマホゲームへと飛躍を遂げました。2025年現在もなお、セールスランキング上位の常連であり、その地位は盤石です。

この成功を受け、2017~2018年頃から、業界では『FGO』を徹底的に研究し、「俺たちもFGOみたいなゲームを作るぞ!」と意気込む企画が乱立しました。もちろん、これらの企画はそのほとんどが失敗に終わりました。主な原因は以下の通りです。

理由その1:『FGO』がヒットした理由の勘違い。TYPE-MOONが長年かけて築き上げてきた重厚な世界観と、奈須きのこ氏を筆頭とする強力なシナリオライター陣は、普通の会社が簡単に真似できるものではありませんでした。

理由その2:『FGO』というコンテンツの強さ。既存ファンはすでに膨大な時間とお金を注ぎ込んでおり、他のゲームへの乗り換えコストが非常に高くなっていました。買ってクリアすれば終わりのコンシューマゲームとは異なり、こうした運営型のゲームは、プレイヤーの感情や生活そのものと深く結びついていたのです。

理由その3:独自の強みを打ち出せなかったこと。『FGO』には最初から『Fate』シリーズという強力なIPの看板がありました。だからこそ、スタートダッシュに失敗しても、ファンは根気強く付き合ってくれたのです。しかし、後発の模倣作品にはそのアドバンテージがなく、プレイヤーに認知される前に見限られてしまいました。

▼ 2. 『原神』がもたらした「黒船」来航

前述の通り、2020年以前の日本のゲーム業界は、まだ「『FGO』に倣え」の段階にありました。そんな中、2020年9月、日本のゲーム業界は一隻の「海外からの黒船」を迎えることになります。それが『原神』です。一部で指摘される盗作疑惑はさておき、ゲーム業界にとって、スマホゲームで完全な3Dフィールドと3Dキャラクターを組み合わせ、ボイスやモーションも緻密に作り込まれた「人形劇」レベルの演出は、それまでの日本のスマホゲームではほとんど前例のないものでした。

さらに特筆すべきは、『原神』が「フルボイス」を徹底している点です。どこを歩いていてもセリフが再生され、ごく短いサブイベントですら声優が声を当てています。このこだわりが物語に命を吹き込んでいますが、それは同時に作業量が何倍にも膨れ上がることを意味します。これは、旧来の日本のスマホゲームの企画・シナリオ設計にとって、まさに強烈な一撃となりました。

『原神』のような超大作が登場したことで、日本の大手ゲーム会社は選択を迫られました。従来の開発スタイルを続けるのか? 大作路線を諦めるのか? それとも、巨額の投資をして対抗するのか? その後、2022年の『ヘブンバーンズレッド』や、Cygamesの『ウマ娘 プリティーダービー』なども、高予算とリッチな演出で再び話題の中心となりましたが、業界全体として見れば、この「クオリティ競争」のプレッシャーが顕在化した瞬間でした。

▼ 3. 「ソシャゲバブル」の崩壊と業界再編

2023年4月、HoYoverseは『崩壊:スターレイル』をリリースし、再び日本のゲーム業界に海外産タイトルの実力を見せつけました。しかしその一方で、誰もが大きな変化に気づき始めていました。これまで右肩上がりだった「スマホゲーム市場」の潮目が変わったのです。多くの人がこの現象を「ソシャゲバブルの崩壊」と呼んでいます。

① 開発コストと競争環境の激変

ユーザーの目はますます肥え、中国の『原神』や『崩壊:スターレイル』、さらには韓国の『ブルーアーカイブ -Blue Archive-』、『勝利の女神:NIKKE』といった海外勢に対抗するため、各社はより高いクオリティを求められるようになりました。当然、その裏では開発費だけでなく、運営費や広告宣伝費も高騰し、ゲーム開発のリスクは増大の一途をたどっています。

② 市場の過飽和と寡占化

新作スマホゲームは毎日のようにリリースされ、市場は完全に供給過多の状態です。一部のヒット作がプレイヤーと収益を独占する構造が強まり、新規タイトルが生き残るためのスペースはますます狭くなっています。

③ 競争相手は同業者だけではない

現代のプレイヤーがスマホで楽しむのはゲームだけではありません。動画配信サービスや電子コミックなど、可処分時間の奪い合いは激化しています。「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する風潮も強まり、時間を拘束するスマホゲームは、よりシビアな目で評価されるようになりました。さらに、サブスクや「推し活」への出費など、ユーザーがネットに使うお金の行き先も多様化し、ゲームに割ける予算は限られています。

これらの要因が重なり、2023年から2024年にかけて、多くのスマホゲームがサービス終了や開発中止に追い込まれました。コンシューマ向けの大型プロジェクトでさえ、凍結されるケースも出てきています。スクウェア・エニックスやバンダイナムコといった大手企業も、2024年の決算発表でプロジェクトの見直しや中止に言及しており、経営レベルでも大きな風向きの変化が感じられます。

しかし、これは必ずしも悲観的な話ではありません。「ソシャゲバブルの崩壊」とは市場の消滅ではなく、むしろ「転換期」あるいは「再編期」に入ったと捉えるべきです。市場で真の勝者がふるいにかけられることで、リソースが本当に実力があり、長期的に運営できる作品へと集中していく健全化のプロセスとも言えるでしょう。

実際、この激動の中で頭角を現したゲームも少なくありません。例えば2024年5月にリリースされた『学園アイドルマスター』は、その高いクオリティと明確なコンセプトで、アイドルの物語を魅力的に描き出し、時流に乗って大きな支持を集めました。

▼ 4. 「体験の質」がコンテンツの核に

2013年にリリースされた『チェインクロニクル』は、「メインストーリー+キャラクターストーリー+イベントストーリー」という三層構造を確立し、「短・中・長期の物語でプレイヤーを惹きつけ、段階的に世界に没入させる」という、スマホゲームのシナリオにおける一つのスタンダードを打ち立てました。

当時はスマホゲーム市場の黎明期で、プレイヤーに毎日少しずつ、かつ飽きさせずに遊んでもらうための最適なフォーマットが模索されていました。この三層構造は、その答えの一つだったのです。しかし、2025年現在、数々の大作に触れてきたプレイヤーの要求はさらに高まり、ただ良い物語を実装するだけでは満足されなくなりました。ゲームシナリオは、かつての「あれば良い」ものから、「満足でき、記憶に残り、誰かに伝えたくなる」ものへと、その役割が変化したのです。

以前は『FGO』のメインストーリーを読んで「熱い!」と感じるだけで十分でした。しかし今では、シナリオの展開がもたついたり、演出が手抜きだったりすると、プレイヤーは最後まで読むことすらなく、次からはゲームを起動しなくなるかもしれません。今、重要視されているのは「体験の質」です。それは「プレイヤーが、いつ、どんな気持ちでゲームをプレイし、その画面や物語が心に刺さるか」という問いに他なりません。UIの遷移、感情の揺さぶり、プレイヤーを「おおっ!」と唸らせる演出。これらはシナリオを追加するだけでは実現できず、ましてやグラフィックを3Dにするだけで解決する問題でもありません。重要なのは、「このゲームに時間やお金を投資する価値がある」とプレイヤーに「毎秒」感じさせ続けることなのです。

現代の「タイパ」を重視する風潮を逆手に取り、短編のインタラクティブなショートストーリーやマイクロアニメーションを駆使する手法は、スマホプレイヤーのプレイスタイルと非常に相性が良いと言えます。長大な物語を一度に読ませるよりも、「お、これはちょっと面白そうだ」と思わせる短いコンテンツで惹きつけ、その先へと誘導するのです。

成功例としては『学園アイドルマスター』が挙げられます。また、例えば『機動戦士ガンダム GQuuuuuuX』のようなアニメの放送に合わせて『SDガンダム Gジェネレーション エターナル』で連動イベントを実施するといったメディアミックスも有効です。短いドラマやミニ劇場、あるいは面白いインタラクションを通じて、「ゲームを開いてみよう」「更新がないかチェックしてみよう」と思わせることが、これまで以上に重要になっています。

▼ 5. シナリオライターに求められるスキルと報酬の二極化

ここからは少し業界内部の話になりますが、近年の新作ゲームの多くは『原神』や『ウマ娘 プリティーダービー』のような人形劇スタイルのリッチな演出を採用しています。そのため、シナリオは単なるセリフの集合体ではなく、声優の演技、プロモーション展開、アニメーションとの連携、笑いのポイントまで、あらゆる要素を計算して書く必要があります。言い換えれば、現代のゲームシナリオライターには「映画やテレビドラマの脚本」を書くようなスキルが求められているのです。

この変化は、多くのゲーム会社がフリーランスのシナリオライターをチームに「常駐」させるスタイルを好む一因にもなっています。仕事を外注して成果物の納品を待つのではなく、開発の全工程においてチームの一員として会議に参加し、共に調整を重ねていくのです。フリーランスという立場でありながら、こうした常駐案件を安定して受注できるライターは、プロジェクトの進捗に合わせて報酬を得られるため、正社員よりもむしろ安定した収入を得られるケースも少なくありません。

その一方で、「正社員シナリオライター」の採用枠は減少傾向にあり、大手でも募集窓口を設けていないことがあります。シナリオ制作会社ですら、人員削減や事業縮小、プロジェクトの統合といった動きが見られます。特にシナリオライターの育成コストは非常に高いため、自社で育てるよりも、即戦力となる外部のプロフェッショナルと協業する方が、ゲーム企画との相性も良いと判断されているのです。

現在、市場におけるシナリオライターの報酬格差は拡大し続けています。実績と協調性を兼ね備えた常駐フリーランスは高単価で安定した仕事を得られる一方で、そこまでの実力がないライターは「文字単価」や「本数単価」の仕事しか受けられず、生活水準を維持することが難しくなっています。

この報酬の二極化は、特に新人にとって過酷な現実です。常駐フリーランスになるには十分な実績と経験が必要ですが、新人はその機会を得られず、下請けや小規模な案件で経験を積み、ポートフォリオを充実させるしかありません。しかし、案件が少なく収入が不安定な状況では、自身のスキルを磨くことも、高単価の案件を獲得するための強力な実績を作ることも困難です。これはまさに「資本がデキる人間にますます集中する」という、新人が不利になりやすい典型的な構図と言えるでしょう。

この記事で語られているように、スマホゲームに対するプレイヤーの要求水準は日々高まっており、クオリティが伴わなければ見向きもされない時代になりました。もはや強力なIPというだけではユーザーの心は掴めず、巷に溢れる「公式ライセンスゲーム」の多くが短命に終わっているのがその証拠です。

加えて、現代人のスマホにはエンタメが溢れかえっており、時間は有限です。その中で、いかにして自社のゲームをプレイヤーの優先リスト上位に食い込ませるか。それが、今のゲームデザインにおける最重要課題なのかもしれません。もしかしたら、あと5年もすれば、スマホゲームのあり方やそれを取り巻く環境は、今とは全く異なるものになっていることでしょう。

via: 電ファミニコゲーマー