藤本タツキ先生による大人気コミック『チェンソーマン』。その初となる劇場版アニメ『チェンソーマン レゼ篇』が、先週9月19日(金)に公開され、早くも大きな話題を呼んでいます。口コミでも高評価が相次いでおり、ファン待望の劇場版として最高のスタートを切りました。
本作でメガホンを取るのは、TVシリーズでアクションディレクターを務めた吉原達矢監督。そして、TVシリーズに演出として参加した中園真登氏が副監督を務めます。この度、お二人がメディアのインタビューに応じ、原作でも屈指の人気を誇る「レゼ篇」が、いかにして劇場アニメ化されたのか、その制作秘話を語ってくれました。

「レゼ篇」の美しさと、その純粋さを映像に
Q : 「レゼ篇」の制作に参加されると決まった時、率直な感想はいかがでしたか?
吉原監督:正直、かなり悩みました。ですが、これはまたとない機会ですし、何よりファンの皆さんの期待に応えたいという気持ちが強く、全力を尽くそうと決意しました。
中園副監督:TVシリーズからポジションは違えど共に戦ってきた吉原さんが、監督として『チェンソーマン』を手がけるなら、ぜひその隣でサポートしたいと思いました。また、「TVシリーズで培った経験をすべて注ぎ込みたい」という気持ちで、さらに魅力的な『チェンソーマン』を描きたいと思いました。
Q : 「レゼ篇」の物語で、特に魅力を感じるのはどんな部分ですか?
吉原監督:レゼというキャラクターが物語の主軸でありながら、そこに様々なキャラクターの思惑が絡み合い、非常に美しい物語構造を織りなしている点です。起承転結から感情の流れまで、すべてが完璧に構築されています。原作でも非常に人気の高いエピソードなので、その魅力をアニメでもしっかりと表現したいと考えました。
作品全体を通して、レゼとデンジのやり取りを観て「尊い」と感じてもらえるように、そして観客の皆さんが楽しめるように意識しました。物語的には叙情的で繊細な雰囲気を大切にしています。その一方で、アクションシーンはMAPPA作画チームの真骨頂!火力を全開にして、観客の皆さんに最高の爽快感を味わってもらえるように作り込みました。

原作に忠実、だけどより生き生きとした表現へ
Q : 「レゼ篇」をアニメ化する上で、最も核としたポイントはどこでしょうか?
吉原監督:キャラクターデザインの杉山和隆さんを中心とした作画・演出チームと話し合う中で、まずは原点に立ち返り、原作のコマ割りや画面表現を徹底的に研究しました。キャラクターデザインや作画の面では、原作の絵柄を可能な限りアニメに落とし込むことを目指しました。大きな変更点としては、マキマやパワーの髪の色、そしてキャラクターの瞳のハイライトをなくしたことですね。これによって、より原作の雰囲気に近づけることができたと思います。

Q : 原作に忠実でありながら、難しさや達成感を感じた部分はありますか?
吉原監督:僕にとって『チェンソーマン』のキャラクターたちは、皆どこか特殊な一面を持ちつつも、同時にそれぞれ「可愛らしさ」も持っているんです。その可愛さをしっかりと描き出し、アクションシーンやシリアスなシーンとのギャップを生み出すことで、物語に緩急がつき、より面白くなると考えました。
中園副監督:『チェンソーマン』という漫画の特色は、コマとコマの間の「余白」感や、藤本タツキ先生ならではのセリフのテンポ感にあると思っていて、それらが物語に独特の緊張感を与えています。なので、その空気感をいかに映像で再現するかに特にこだわりました。漫画は読者が自分のペースで読み進められますが、アニメは音と時間が固定されています。その中で原作の雰囲気や魅力をどう伝えるか、というのは非常に難しくも、やりがいのある挑戦でした。
Q : 制作過程で、チーム内で特に繰り返し確認したことはありますか?
吉原監督:「レゼ篇」ではより表現の幅を広げたいと考えていたので、演出や作画チームとは常に「どこまでやれるか?」という点を確認し合いました。例えば、使い方を間違えるとチープに見えてしまうような手法や、表情を大げさに描くデフォルメ表現も、効果的であれば積極的に採用しました。また、パースやライティングも過度に厳密にするのではなく、視聴者が「リラックスして」画面を楽しめることを目指しました。もちろん、これは手を抜くという意味ではなく、より気軽に見やすい雰囲気を作るための工夫です。
中園副監督:チーム内で皆が十分に意見を交換し、お互いの話に耳を傾けられたことが、作品の完成度を高める上で非常に重要だったと思います。

声優の力—上田麗奈さんが生み出したレゼ像
Q : すでにPVなどが公開されていますが、手応えを感じた部分はありますか?
吉原監督:新しい試みの中には、完成した画面を見て初めて「これは本当に効果的だった」と実感できたものもあります。中には、完成した映像があまりに素晴らしかったために、急遽コンテの内容を調整した部分もあるくらいです。
中園副監督:映像が徐々に完成していくにつれて、作画監督や演出陣から出てきたアイデアと、吉原監督が思い描いていた効果が融合し、「これはとんでもない作品になるぞ」という手応えを感じました。編集や音響作業の段階でも、作品のテンポやセリフのニュアンスが、非常に原作に近いものになっていると実感できました。
Q : 「レゼ篇」では、デンジ、レゼ、マキマの会話劇も大きな見どころですが、アフレコ現場はいかがでしたか?
吉原監督:デンジ役の(戸谷菊之介)さんには、音響監督の名倉靖さんを通じて「もう少し頭を空っぽにする感じで」とお願いしました。特にチェンソーマンに変身する時は、あの「脳みそが完全に空っぽ」な感じが、キャラクターの純粋さを際立たせるんです。

Q : よりピュアな感じを表現したかったということですね?
吉原監督:その通りです。今回のPVでもデンジのセリフを使っていますが、本編の収録を終えて、非常に面白く、素晴らしい仕上がりになったと感じています。楠木ともりさんが演じるマキマについては、キャラクター自体に掴みどころがないので、デンジとのデートシーンでも、あえて感情を抑えた演技の中に、いつもとは違う一面が垣間見えるように意識しました。レゼに関しては、初対面からプールでのシーンまで「明るさを意識してほしい」とディレクションしたところ、上田麗奈さんがすぐさま切り替えて、我々が求める完璧な演技をしてくださいました。
中園副監督:レゼというキャラクターは本当に演じるのが難しいのですが、上田麗奈さんは収録を通して、ご自身の中に確固たるレゼ像を築き上げてくださいました。もちろん、我々のディレクションと彼女の演技の間で試行錯誤を重ねた部分もありますが、最終的に表現されたレゼは、我々の想像を遥かに超えるほど魅力的でした。レゼを上田さんに演じていただけて、本当に良かったです。

カッコいいだけじゃない——台風の悪魔、爆発シーンへのこだわり
Q : 「レゼ篇」には台風の悪魔や爆弾の悪魔(ボム)が登場し、バトルシーンも大きな見どころです。アクション面でのこだわりを教えてください。
吉原監督:アニメーション最大の強みは「音、動き、色彩」です。だからこそ、「アクションをどう見せるか」そして「時間をどう使ってドラマを演出するか」という2点において、原作をさらに一段階上のレベルに引き上げられると考えました。そこで、アクションディレクターの重次創太さんには、原作の表現を「2、3段階レベルアップさせてほしい」とお願いしました。今回は「シネマスコープサイズ(2.35:1)」の画角を採用し、その広い視野を最大限に活かすことで、アクションシーンにさらなるスケール感と奥行きを持たせています。爆発や台風といった派手なエフェクトは、元々劇場の大スクリーンでこそ映えるものなので、「劇場版」という環境と非常に相性が良かったと思います。

爆弾の爆発——光と影、色彩の繊細な表現
Q : 爆弾が爆発するシーンは、どのようにデザインされたのでしょうか?
吉原監督:今作は夜の戦闘シーンが多いので、爆発の閃光が暗闇の中で特に美しく映えます。爆発の色味にはかなりこだわりましたね。一般的な爆発といえばオレンジや黄色を想像しがちですが、我々はその中から「最も美しい色域」を抽出し、画面をより魅力的に見せる工夫をしています。さらに、シーンごとに爆発の色調を変えることで、観客が「また同じ爆発か」と単調に感じてしまわないように配慮しました。
中園副監督:アクションディレクターの重次さんのコンテには面白いアイデアが満載でした。特に、原作では描かれていないボムのアクションをアニメで補完することで、原作ファンの方々にも新鮮な驚きを与えつつ、映画ならではの壮大なスケール感を感じてもらえると思います。


レゼ × マキマ —— キャラクターの対比を「色」で魅せる
Q : レゼは本作で非常に魅力的なキャラクターですが、彼女を描く上で特に意識したことは何ですか?
吉原監督:レゼは物語の後半で大きな転換点を迎えますが、そこに至るまでは、あくまでデンジと純粋に交流する一人の少女として描くことを徹底しました。「純粋さ、可愛らしさ」という側面をしっかりと見せることで、後の展開における衝撃がより強くなると考えたからです。
Q : 今回の色彩表現は、これまでのアニメと比べてどのような違いがありますか?
吉原監督:従来のアニメの色彩は、明度や彩度が一定のルールに基づいて決められていることが多いですが、近年のアニメでは色彩表現が多様化しており、イラスト風のものから実写に近い質感のものまで様々です。我々も今回は、原作の雰囲気を大切にしつつ、イラスト的なアプローチの色彩設計を取り入れています。
Q : 「レゼ篇」ではマキマも重要なキャラクターですが、レゼとの対比はどのように表現しましたか?
吉原監督:物語序盤のデンジとマキマのデートシーン、そしてデンジが電話ボックスでレゼと出会うシーンは、中園さんに演出をお願いしました。その際、「対比」を意識してほしいと伝えました。——マキマは成熟した大人として、デンジとの間に明確な精神年齢の差を感じさせる。しかし、レゼとデンジの間には同年代ならではの空気感があり、より「同じ目線」にいる感じを表現してもらいました。
中園副監督:マキマがデンジを映画に連れて行くのは、非常に「大人な」デートですよね。それに対して、レゼはデンジを夜の学校や夏祭りに連れ出すという、ちょっと「ワルい」遊び方をする(笑)。この二つの対比によって、デンジの反応や感情の変化がより明確になります。演出する上では、マキマはデンジにとっての女神であり憧れの存在、レゼはもっと身近な同年代の女の子、という違いを特に意識しました。
Q : 画面の雰囲気作りにおいて、その対比はどのように表現されていますか?
中園副監督:デンジとレゼがカフェにいるシーンの光は柔らかく、穏やかなものにしました。一方で、マキマとデンジのデートシーンでは、コントラストの強い、よりドラマチックなライティングを用いています。つまり、行動としてはレゼの方が活発なのに、色彩の雰囲気は優しく、逆に行動は落ち着いているマキマのシーンでは、強烈な光と影で表現しているんです。この絶妙なアンバランスさは、色彩設計のりくさんの力があってこそ、素晴らしいバランスで成立させることができました。


Q : 今回の制作において、お二人がそれぞれ挑戦だと感じたことは何でしたか?
中園副監督:私自身、副監督として映画制作に参加するのは初めてだったので、「『チェンソーマン』をいかにして一本の映画にするか」ということ自体が大きな挑戦でした。副監督という立場ではありますが、私も制作チームの一員として、他のスタッフと協力して作品を完成させる必要があります。TVアニメとは全く異なる経験で、毎日が新しい挑戦の連続でした。
吉原監督:漫画『チェンソーマン』をアニメーションという形に落とし込むプロセスそのものが、常に挑戦の連続です。TVシリーズでの経験はありましたが、劇場版では多くの要素を再調整し、さらに魅力的な作品になるようブラッシュアップしました。作画、色彩、撮影、美術、すべてのセクションで新しい試みを行っています。完成した映像を見た時、その努力が報われたと心から感じました。観客の皆さんには、ぜひ楽しんでいただきたいです。

現在、大ヒット公開中の『チェンソーマン レゼ篇』。口コミでも絶賛の声が広がっており、多くのファンが劇場に足を運んでいます。原作屈指の人気エピソードが、最高のクオリティで映像化された本作。ぜひ劇場の大スクリーンで、その衝撃を体感してください!
via: MANTANWEB