先日発表された『Pokémon LEGENDS Z-A』(Pokémon LEGENDS Z-A)。多くのファンが新たな冒険への期待に胸を膨らませる中、このゲームが持つ意外な可能性に注目が集まっています。それは、単なる娯楽としてだけでなく、子供の思考力を育む教材としての側面です。
日本の作家兼講師である布施川天馬氏が、ニュースサイト「日刊SPA!」への寄稿で、本作を「親子で学ぶ神ゲー」と絶賛。そのユニークな視点が、ネット上で大きな話題を呼んでいます。

布施川氏は、本作のコンセプトに触れただけでも、これまでの『ポケモン』シリーズとは一線を画す特別な何かを感じ取ったと語ります。その「いつものポケモンと違うぞ…?」という強烈な違和感こそが、親子で共に考え、思考力を鍛えるための最高の教材になり得ると指摘しているのです。
■ プレイヤーも殴られる! これがリアルなポケモンワールド
『Pokémon LEGENDS』シリーズが従来の『ポケモン』と最も異なる点は、ジャンルが「アクションRPG」であることです。『ポケットモンスター 赤・緑』以来の伝統的なシリーズでは、トレーナーは安全な場所からポケモンに指示を出す、いわば監督のような存在でした。しかし、『Pokémon LEGENDS』シリーズでは、主人公はポケモンと共に広大なフィールドを駆け巡ります。野生のポケモンはプレイヤー自身に直接襲いかかり、何度も攻撃を受ければ、目の前が真っ暗になってベースキャンプへ強制送還されてしまうのです。
この仕様には、長年のファンほど戸惑うかもしれません。「野生のポケモンに追いかけ回されるなんて聞いてない!」と。しかし、よく考えてみれば、ポケモンの能力は本来どれも規格外。「ゴース」が発生させるガスはインド象を2秒で昏倒させ、「ポニータ」のジャンプ力は東京タワーを飛び越えるほど…。そんなポケモンに本気で狙われたら、人間などひとたまりもないはずです。もちろん、これはゲームの話。現実とゲームの区別がつかなくなれば「ゲーム脳」と揶揄されてしまうかもしれません。しかし布施川氏は、思考力を鍛える上では「良いゲーム脳になること」がむしろ有益だと主張します。

■ いわゆる「良いゲーム脳」は、思考力を鍛えるトレーニング
「良いゲーム脳」とは、ゲームと現実の間にしっかりと線を引いた上で、両者の違いを比較し、思考を深める力のこと。例えば、ポケモンをプレイしながら、こんな問いを立ててみるのはどうでしょう。「もし、この世界に本当にポケモンがいたら、僕たちはどう共存していくべきだろう?」と。
現実世界では、人間は野生の熊と遭遇するだけでも大騒ぎです。それが『Z-A』の世界のように、街中を野生のポケモンが闊歩しているとしたら、生きていくだけでも一苦労でしょう。誰もがポケモンを捕まえられるようになったら、「ピカチュウの“10まんボルト”って、どれくらいの威力なんだろう?」「ケーシィの“テレポート”は、どれくらいの重さまで運べるのかな?」と考える人が出てくるはず。ポケモンの力を社会に活かそうと研究する者もいれば、「ポケモンの自由意志を尊重し、干渉すべきではない」と主張する人々、さらにはポケモンを神として崇める宗教まで生まれるかもしれません。

■ 『Z-A』で描かれる“現実世界のシビアさ”
実は『ポケモン』シリーズは、私たちが想像する以上にリアルな側面を描いてきました。初期の「ロケット団」はポケモンの密売で資金を得る犯罪組織でしたし、『ポケットモンスターブラック・ホワイト』に登場した「プラズマ団」は「ポケモンを人間の支配から解放する」という大義を掲げた過激な集団でした。漫画『ポケットモンスターSPECIAL』を読んだことがある方なら、このリアルさには深く頷けるはずです。
ゲーム内で対戦相手に勝つとお金がもらえるのも、「その賞金は誰が? 大会運営は?」「審判がいなければ、不意打ちや強盗だって起こるのでは?」といった想像を掻き立てます。『Z-A』の世界では、こうした仮説が現実のものとなります。敵トレーナーの背後からポケモンを繰り出してバトルを有利に進める「不意打ち」が、システムとして組み込まれているのです。ゲーム側から「見つからずに、こっそり奇襲をかけろ」と推奨されることで、多くのプレイヤーは、これまで以上にリアルでシビアな世界観を体験することになるでしょう。

■ 「面白い!」は最高の学びの入り口
『Pokémon LEGENDS』シリーズの魅力は、こうした大人の「なんで?」という疑問から逃げずに、「もし本当にポケモンが存在したら」という世界を真摯に描こうとしている点にあります。「ゲームはゲーム、現実は現実」とよく言われますが、物語が現実から完全に乖離していては、面白さは生まれません。フィクションが輝くためには、それを支えるリアリティが必要不可欠なのです。
例えば、『呪術廻戦』で呪力を利用した発電が語られたり、『鬼滅の刃』で腕を失ったキャラクターが戦線離脱したりと、こうしたリアルな設定が、かえって物語に深みと説得力を与えています。「上手な嘘は、ほんの少しの真実を混ぜ込む」と言いますが、優れた作品を創るには、誰よりも現実を深く理解する必要があるのです。
「ゲーム」と「現実」を完全に切り離してしまうのは、「勉強は机の上でしかできない」と考えるのと同じくらい、視野の狭い考え方かもしれません。本当に大切なのは、分野を横断する視点で物事の違いを比較し、考える力です。
「子供がゲームに夢中になりすぎて心配」と悩む保護者の方は多いかもしれません。しかし、もし親もそのゲームに隠されたリアルな世界観を理解しようと歩み寄れば、そこから親子で学べることはたくさんあるはずです。ゲームの中に散りばめられたリアルな設定を「現実の視点」から子供に語ってあげられたなら、そのゲームは単なる娯楽ではなく、親子で共に学ぶ最高の教材へと姿を変えるでしょう。

もちろん、これは布施川氏による一つの視点です。しかし、『Pokémon LEGENDS Z-A』が、楽しみながら学べる「エデュテインメント」の可能性を秘めていることは間違いありません。従来のシリーズに慣れ親しんだファンにとっては、少し戸惑う部分もあるかもしれませんが、この新しいプレイスタイルを通じて、子供たちが現実世界とリンクした知識や視野を広げるきっかけになるのなら、これほど素晴らしいことはないでしょう。
via: 日刊SPA!