『みいちゃんと山田さん』アニメ化に日本自閉症協会が懸念を表明 「全編を読んだ上で深く憂慮」

漫画家・亜月ねね先生による漫画『みいちゃんと山田さん』が、7月にアニメ化されることが発表されました。本作は知的障がい者や風俗業といったテーマを扱っていることから、作者の言動やアニメ化がもたらす社会的影響について、議論が続いています。

先だって知的障がい者支援団体がアニメ化に懸念を示す意見書を発表したのに続き、この度一般社団法人日本自閉症協会も、『みいちゃんと山田さん』のアニメ化および作品そのものが抱える問題点について、意見書を公開しました。

日本自閉症協会が公開した意見書のタイトルは、「最終話を迎えた漫画『みいちゃんと山田さん』に対する意見」です。

アニメ化について、協会は「年齢制限を設ければよい、あるいは、誰もが視聴できる地上波でなければ問題がない、ということではないと考えます。このマンガの関係者の文化のもとで、アニメ化されることに強い危惧を抱くものです」と批判しています。

続けて、「障害のある人を守る当協会の立場から、障害のある人への揶揄や侮蔑、障害のある人のきょうだいや家族に対してからかいといったことが起こらないように、また、貧困や障害という現実に存在する困難に対して商業的な成功(収益)や他人の不幸をおもしろがるための材料ではなく、必要な支援につなげられるように、皆様の一層のご理解をお願いします」と述べています。

■ 以下、意見書(要旨)

1. 意見を表明する理由

この漫画では、みいちゃんに障がいがあることは明言されていませんが、その描写や作者の外部への発信内容から、知的障がいや発達障がいがある可能性が推察されます。そのため、私たちはインターネット上でのこの漫画に対する様々な意見を注視してきました。

その上で、以下の2つの理由から、私たちも正式に意見を表明することといたしました。

・障がいのある人の人権を守る立場から、本協会としての意見表明を求める声が寄せられていること。

・現実に、障がいのある子どもを揶揄する言葉として「みいちゃん」という言葉が使われ始めていること。

2. 現実に起きていること

知的障がい者支援団体「一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会」の意見書では、「みいちゃん」という言葉が、知的障がいや発達特性のある女性を揶揄し、侮辱する言葉として使われている事例が複数指摘されています。 本協会にも、自閉症のきょうだいを持つ子どもから「学校でからかわれるのではないか」という不安の声が寄せられています。

また、実際にこの漫画を読んだ障がい当事者やその家族からは、不安や不快感を表明する声が届いています。作者や出版社に差別の意図がなかったとしても、現実にこうした事態が起きていることを看過することはできません。

3. この漫画が抱える問題点

最大の問題点を一言でいえば、本来最も真摯に向き合うべきである夜の産業をめぐる問題や、貧困と障がいといった現実に存在する困難が、商業的な成功(収益)のネタにされている、という点にあると考えます。

また、不幸な「みいちゃん」を「さらりとしたタッチ」で描くことが、結果として、他者を揶揄する言葉としてキャラクターが使われることにつながったのではないか、とも考えています。

4. 不幸を「ネタ」にすること

最終話までを読むと、この漫画全体が、みいちゃんと山田さんの二人の絆を軸にした物語であり、全編の大部分を占めるみいちゃんの境遇や経験は、亡くなったみいちゃんとの約束を果たすために山田さんが描いた追悼漫画、つまり劇中劇であったと理解しました。

しかし、そうだとしても、作品の大部分は「みいちゃんに何が起きたのか」を終始描いています。そのため、作品の大部分を占める「みいちゃんの受難」が、読者の作品評価の焦点となるのは自然なことだと考えます。以上の状況を総合し、私たちは以下の事実から前述の見解に至りました。

① YouTubeチャンネルでの発言

講談社『ヤングマガジン』編集部の公式YouTubeチャンネル「ヤンマガch」で本作を紹介する企画において、「みいちゃんが可哀想な目に遭うのを見たい」「この世界の底を見てみたい」「人が堕ちていく様を見たいと思わせるみいちゃんのキャラ」といったテロップが表示されていました。この動画は8月1日に非公開となっています。

編集部自身がこの漫画を語る際、山田さんではなく、みいちゃんの境遇に焦点を当てていること――この事実こそ、本作が「山田さんの追悼」としてではなく、「みいちゃんの悲劇」として社会に受容され、弱い立場のみいちゃんが搾取され堕ちていく様が娯楽として読まれたことの何よりの証拠ではないでしょうか。

②「リアルみいちゃん」アクリルスタンド

出版社は、涙を流し半裸の姿のみいちゃんのアクリルスタンドを、「レアな景品」として抽選でプレゼントしていました。 出版社自身が、その不幸を商業的価値と見なしていると考えざるを得ません。漫画家を目指す山田さんが、ほとんど訪れる人もいないみいちゃんの墓に毎年墓参りをする描写からは、みいちゃんを救えなかった山田さんを通して、みいちゃんに寄り添い、理解したいという作者の気持ちが象徴されているように感じられます。

しかし、それにもかかわらず、出版社や作者の姿勢から、この作品が結果的に「弱者の不幸をエンタメ化」したものとして読まれ、障がいのある人やその家族に不快感を与えている可能性があります。

5. ネット先行配信のリスクについて

この漫画は、ネットで先行連載されるという形式をとっています。そのため、これまでのやり方であれば組織的に機能したであろう、出版社のこれまでの蓄積によるチェックや監修、リスクヘッジが機能しづらかったのではないでしょうか。ましてや、本作は作者のデビュー作とされ、非常にデリケートなテーマを扱っているからこそ、なおさらです。

出版社は、ネット配信時代に即した監修・チェック体制を構築する必要があるのではないでしょうか。

6. まとめ

以上の内容を総合し、本作のアニメ化について、私たちは「年齢制限を設ければよい」、あるいは「誰もが視聴できる地上波でなければ問題がない」ということではないと考えます。この漫画が、関係者によって形成された文化の中でアニメ化されることに、私たちは深く憂慮しています。障がいのある人たちの人権を守る立場から、障がいのある人を揶揄したり、侮辱したりすること、また、障がいのある人のきょうだいや家族がからかわれるようなことがないよう、ご理解いただきたいと願います。

また、貧困と障がいなど、現実に存在する困難を、商業的な成功(収益)のネタにしたり、他者の不幸をエンターテイメントとして消費したりするのではなく、必要な支援につながるよう、ご理解とご協力をお願い申し上げます。

『みいちゃんと山田さん』は、社会や福祉制度からこぼれ落ち、孤独、貧困、搾取の中で生きる女性たちを描いた作品として支持者から評価されてきました。しかしその一方で、キャラクターやテーマの描き方については、「知的障がいや発達障がいのある人々に対する社会の偏見や差別を助長しかねない」という批判も根強くありました。

アニメ化の発表を機に、議論は単なる作品内容にとどまらず、「フィクションは障がい者をどう描くべきか」「作中のキャラクターや設定は、現実社会でどのように解釈され、利用され、消費されるのか」といった、より深い問題へと発展しています。アニメ化発表からまだ2ヶ月足らずですが、すでに社会の各方面から大きな注目を集めており、今後の展開が待たれます。


via: 般社団法人日本自閉症協会の公式WEBサイト