「アニメ産業崩壊リスク」がトレンド入り…華やかな世界の裏側で声優・アニメーターを苦しめる低賃金問題、海外メディアが報じる

近年、日本のアニメ産業は国内外で目覚ましい成長を遂げ、そのソフトパワーを世界に示しています。特にコロナ禍も追い風となり、海外市場は拡大の一途をたどっています。

そんな中、本日(2月14日)、海外メディアのBloombergが一本の記事を配信。世界的に成長を続ける日本のアニメ産業の裏で、現場を支える声優やアニメーターといったクリエイターたちが、労働搾取ともいえる状況から一向に抜け出せずにいるというのです。この報道を受け、Xでは「アニメ産業崩壊リスク」というワードがトレンド入りし、大きな波紋を広げています。

▼ Xのトレンドに浮上した「アニメ産業崩壊リスク」。

記事では、現在60歳の声優・柴田由美子さんの例が挙げられています。彼女は『恐竜惑星』の萌や『聖闘士星矢』の春麗といった役で知られていますが、90年代当時、10年以上のキャリアがありながら収入は伸び悩み、1日のギャラはわずか5,000円ほどだったといいます。そのため、昼は声優、夜は六本木や銀座のクラブでアルバイトをして生計を立てる生活を送り、後に別の業界へと転職しました。

近年、『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』といった作品が世界的な大ヒットを記録。日本動画協会のデータによれば、2023年のアニメ産業の市場規模は3兆3000億円に達し、この10年で2倍以上に成長しました。しかし、その莫大な利益が、現場で働く多くの声優やアニメーターといったクリエイターたちに還元されているとは言えません。日本アニメーター・演出協会が2022年に行った調査では、20~24歳のアニメーターの平均年収はわずか197万円。これは東京都の同年代の平均年収350万円を大きく下回る数字です。2018年の155万円からは増加しているものの、アメリカのアニメーターの平均年収の半分にも満たないのが現状です。

アニメ業界の劣悪な労働環境は、もはや隠しきれない問題となっています。Bloombergは20人以上の業界関係者に取材を行い、低賃金だけでなく、長時間労働、給与の未払い、正式な契約書の不備といった問題が横行している実態を明らかにしました。昨年5月には、国連人権理事会も日本のアニメ業界における過労、低賃金、不公正な契約といった問題を指摘。調査を主導したピチャモン・イェオファントン氏は「搾取的な労働環境が解決されなければ、アニメ産業は崩壊する可能性がある」と警鐘を鳴らしています。

日本のテレビアニメの歴史は、1963年の『鉄腕アトム』から始まりました。当時、制作費を抑えるため、キャラクターグッズのライセンス収入で資金不足を補うというビジネスモデルが確立されました。そして現在、多くのアニメの資金は、出版社やテレビ局、玩具メーカーといった複数の企業が出資する「製作委員会」方式によって賄われ、出資企業が著作権と収益を共有しています。

この方式は、一社あたりの投資リスクを分散できるというメリットがある一方で、収益性を低下させるという批判も受けています。さらに深刻なのは、制作過程で多重下請け構造が常態化しているため、声優やアニメーターへの報酬の支払いが6ヶ月以上遅れることも珍しくなく、最悪の場合、支払われないケースすらあるという点です。

かつて声優事務所の代表を務めていた子吉信成氏は、声優へのギャラの支払いが半年以上後になるのは当たり前で、作品がヒットしなければ、まったく支払われないことさえあると証言します。そして、「アニメ制作会社は、クライアントから入金があって初めて声優にギャラを支払う。その結果、末端のクリエイターがすべてのリスクを背負わされている。これは下請法(下請代金支払遅延等防止法)に抵触するはずだが、誰も問題にしていない」と業界の構造的な問題を指摘しています。

▼ 日本のアニメ制作における力関係の構図

『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』の制作にも携わったベテランアニメプロデューサーの沼子哲也氏(63歳)は、業界には本来、賃金を改善する余地はあったものの、組織化された労働組合が存在しないため、賃上げの要求が通らなかったと語ります。

その一方で、アニメ市場の競争は激化。アニメ制作会社の数は2016年の622社から2020年には811社へと増加しました。この過当競争が、かえって多くの制作会社を経営難に陥らせ、賃上げの原資を失わせるという悪循環を生み、業界全体の待遇をさらに悪化させているのです。

一部の業界関係者が権利のために声を上げ始めてはいるものの、多くのアニメーターや声優は、いまだ体制に逆らうことを恐れています。前述の柴田由美子さんも、昨年、自身が収録した音声がゲーム会社に無断で使用された際に抗議し、最終的に謝罪と賠償金を得た経験を明かしました。しかし彼女は、「文句を言えば、次の仕事がなくなるかもしれない。だから声優は黙って耐えるしかないんです」と、業界の厳しい現実を吐露しています。

日本のアニメが世界で存在感を増し続ける一方で、その足元は揺らいでいます。この輝かしい文化を守り、未来へつなげていくためには、クリエイターが正当に評価され、安心して創作に打ち込める環境づくりが急務と言えるでしょう。

via: 日本Bloomberg